集中治療医が解説「急性膵炎治療ガイドライン2021」3つの注目ポイント

急性膵炎のガイドラインが2021年12月に新しくなったのをご存じですか?急性膵炎は重症化しうる疾患で、初期治療がとても大切です。「急性膵炎治療ガイドライン2021」の注目ポイントを、集中治療医の観点から3つ紹介します。

①重症膵炎に対する予防的抗菌薬の推奨がなくなった
今回のガイドラインから、予防的抗菌薬の推奨の記載は削除されました。急性膵炎は、膵臓による自己組織の消化が機序であるため、発症時に細菌感染は起きていません。しかし腸管内から、膵およびその周囲に細菌が移行し、感染が成立すると考えられてきました。この現象はバクテリアルトランスロケーション(BT)と呼ばれ、重症膵炎に対してBT予防のための抗菌薬投与がおこなわれています。

昨今は抗菌薬による感染予防効果が明らかではないことから、抗菌薬を投与しない医師も増えており、ガイドラインがこの潮流に追いついた形です。

2015年のガイドライン 重症例や壊死性膵炎に対する予防的抗菌薬投与は、発症早期(発症後 72 時間以内)の投与により生命予後を改善する可能性がある、として推奨
2021年のガイドライン 重症急性膵炎または壊死性膵炎に対する予防的抗菌薬投与の、生命予後や感染性膵合併症発生に対する明らかな改善効果は証明されていない、として推奨なし

以上のように推奨が変化しました。ただし全例に抗菌薬投与が不要というわけではないことに注意しましょう。あくまで「予防的」な効果が証明されていないのであって「治療的」抗菌薬は必要です。胆石性膵炎では、病初期でも胆管炎を抗菌薬で治療します。抗菌薬投与は不要と漫然に捉えるのではなく、血液培養を採取するなど感染巣の検討は必ずおこなうようにしましょう。

②入院後早期に経腸栄養をはじめることで生存率向上に寄与する
新しいガイドラインでは「経腸栄養は発症早期に開始すれば、合併症発生率を低下させ生存率の向上に寄与するので、入院後48時間以内に少量からでも開始する」と記載されており、経腸栄養の早期開始の推奨度が上がりました。

複数の試験で感染合併症や在院日数、致命率によい効果があるとされており、経腸栄養に熱心にならざるを得ません。消化管閉塞などの禁忌がなければ、経腸栄養は投与可能です。

  • 腹痛、嘔気
  • 血清膵酵素上昇
  • 腸管蠕動音消失
  • 胃内容逆流(胃管排液)

以上のような、一見して経腸栄養をためらうような所見があっても、投与は可能であるとガイドラインに明記されています。栄養投与への熱意が感じられますね。

筆者も重症例に積極的に経腸栄養を開始しており、入院と同時に経鼻胃管を挿入しています。円滑な栄養投与をおこなうため腸管拡張があれば、腸管蠕動改善薬をいくつか投与して対応することも。ナルデメジン、ピコスルファート、漢方薬(大建中湯や六君子湯など)は活用することが多い薬剤です。腹腔内圧上昇の改善も兼ねることもできるという利点もあります。

ガイドライン上は経腸栄養の経路は問わないとされており、経鼻胃管を用いることがほとんどです。ただし強い炎症で胃が強く圧排されているCT所見があれば、十二指腸まで栄養チューブを深めることもあります。

③安易な蛋白分解酵素阻害薬の投与や大量輸液に注意
ガベキサートメシル酸塩などの、蛋白分解酵素阻害薬による膵酵素の活性抑制は、本邦では以前よりおこなわれてきました。しかし近年では否定的な意見が多く、新しいガイドラインでも「急性膵炎において蛋白分解酵素阻害薬の生命予後や合併症発生に対する明らかな改善効果は証明されていない」と記載されています。

また、以前は「重症急性膵炎=大量輸液」という図式が成立していましたが、最近は過剰輸液の弊害について言及されはじめました。新しいガイドラインでも、入院4時間以内に1L以上の初期輸液をおこなうと利点があるが、24時間以上(4.3L以上)積極的な初期輸液をおこなうと合併症リスクが高まるという研究が紹介されています。つまり、積極的に初期輸液はするが、同時に過剰輸液に注意し精緻なモニタリングが必要ということです。

実体験でも、1日のうちに何度も輸液量を検討し、気をつけていないと輸液は知らぬ間に過剰になってしまいます。重症患者は1日ごとに治療方針を決めるのではなく、数時間ごとの方針検討が必要ですね。
「急性膵炎治療ガイドライン2021」は患者と読者のことを考えたガイドライン
「急性膵炎治療ガイドライン2021」を活用すれば、必要十分でコンパクトな治療を提供でき、患者にとって有益だと考えます。

また推奨度が数字表記から「強い・弱い」という記載に、エビデンスの確実性がアルファベット表記から「低・中・高」の記載になり、可読性が向上しました。「やさしい解説」というコーナーがあり、専門家以外が読んでも理解でき、正しい医療行為を広めるために努力されています。

本ガイドラインでは、予防的抗菌薬や蛋白分解酵素阻害薬など、経験的に付加されてきた治療への推奨がなくなりました。過剰な輸液の弊害にも言及されています。現在の集中治療の流れである「Less is More」という考え方に合致するコンセプトです。重症急性膵炎は薬物治療を重ねるというよりは、

  • 臓器障害を引き起こさない範囲で、できるだけ少ない輸液量を検討する
  • 経腸栄養を早期に導入する

というような、当たり前のように見えることこそ大切なのだと改めて感じます。みなさんもぜひ、新しいガイドラインを手にとってみてください。

執筆:ゆっくり救急医

参考文献:
[1] 急性膵炎診療ガイドライン2021改訂出版委員会, 急性膵炎診療ガイドライン2021 第5版, 金原出版, 2021年