知っていますか?脊髄性筋萎縮症に承認された3つの最先端治療!

脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)は病名のとおり、脊髄の運動神経細胞が脱落することで筋萎縮と進行性の筋力低下をきたす、遺伝性希少疾患です。神経難病であることから、なかなか注目されることが少ない疾患でしたが、2017年以降に大手製薬企業3社が立て続けに最先端技術を用いた治療薬を発売しました。

3つの治療薬は、核酸医薬であるヌシネルセン(商品名:スピンラザ)、遺伝子治療薬であるオナセムノゲン(商品名:ゾルゲンスマ)、経口低分子スプライシング修飾薬であるリスジプラム(商品名:エブリスディ)です。特に、ゾルゲンスマは日本で初めて薬価が1億円を超えた薬剤(承認当時1億6707万7222円)として、大きく話題となりました。

今回はこの3薬剤の特徴とこれからの核酸医薬、遺伝子治療の課題と展望について紹介します。

脊髄性筋萎縮症とはSMN1の機能欠損により発症する
SMAは発症年齢と臨床経過によって、5つの病型に分けられています(下表)。重症な病型では、永続的な人工呼吸器管理が必要となり、多くの病型では四肢筋力低下や嚥下障害、歩行障害、脊柱の変形などを呈します。

SMAの原因は長らく不明でしたが、1995年に原因遺伝子のひとつであるSMN(survival motor neuron)遺伝子が同定されました。人の体の中には、SMN1遺伝子とSMN2遺伝子が存在しており、健常者では、大部分がSMN1遺伝子由来のSMNタンパク質が機能しています。SMAの患者は、SMN1遺伝子の欠失もしくは変異があるため、正常に機能するSMNタンパク質が減少するのです。

結果的にSMNタンパク質の減少が、脊髄の運動神経の細胞死を引き起こします。そこで、研究者たちが考えついたのは、もうひとつのSMN2遺伝子を利用して、SMNタンパク質を増やすということでした。

SMNタンパク質を増やす核酸医薬ヌシネルセン
健常者の場合、大半のSMN2遺伝子ではスプライシングの過程で、mRNA上のエクソン7がスキップされるため、短縮型のSMNタンパク質が合成されます。しかし、スプライシングを抑制してエクソン7が読まれるようにすると、SMN2遺伝子から全長のSMNタンパク質を合成できるようになるのです。

ヌシネルセンは、このスプライシング修飾を可能にしたアンチセンス核酸医薬となります[2]。神経難病SMAに対する初めての疾患修飾薬として注目されました。ただ、投与経路が髄腔内注射であり、維持期には4か月ごとの投与を繰り返す必要があります。遺伝子診断がされていれば、発症前投与も可能です。

 

オナセムノゲンは遺伝子治療でSMNタンパク質を増やす
次に誕生したのが、自己補完的アデノ随伴ウイルス血清型9(scAAV9)ベクターを利用した遺伝子治療オナセムノゲンです[3]。このベクターは中枢移行性がよく、SMN遺伝子を組み込むことで、中枢内でSMNタンパク質を増やすことができます。前述のとおり、1億円を超える薬剤ですが、投与は1回のみで静脈投与です。2歳未満の投与に限定されていますが、この薬剤も遺伝子診断がされていれば、発症前の投与ができます。

リスジプラムは低分子経口剤でSMN2に作用する
3番目に誕生したのが、低分子経口剤リスジプラムです[1]。作用機序としては、ヌシネルセンと同様にSMN2遺伝子に作用し、エクソン7のスキッピングを抑制することで、SMNタンパク質を増加させます。経口投与で入院の必要がないため、導入のハードルが下がりました。ただし、投与は生後2か月以上となっており、現在のところ発症前投与は承認されていません。

核酸医薬・遺伝子治療薬の課題と展望
SMAという神経難病に対して、それぞれ特徴がある最先端の治療を3つご紹介しました。課題として見えてくるのは、神経疾患の場合、いかに中枢に薬剤を届けるかというドラッグデリバリーの問題や遺伝子治療のがん化リスク、第三者に伝播するリスク、そして高額な医療費による医療財政への圧迫などがあげられています[4]。

しかし、核酸医薬や遺伝子治療により、いままで治療方法がなく諦めていた遺伝性疾患に一筋の光明が差したのは間違いありません。今後、より幅広い遺伝子疾患に対して、核酸医薬や遺伝子治療のみならず、ゲノム編集やiPS細胞など新しい技術を用いた治療が加わり、大きなパラダイムシフトが起こることが期待されています。

執筆:エスディー@脳神経内科

参考文献:
[1]「SMAとは」https://chugai-pharm.jp/contents/cb/020/01/, (参照2022-7-1).
[2]齋藤加代子.脊髄性筋萎縮症の核酸医薬品による治療. 脳神経内科. 2019, vol.90, no.2.
[3]齊藤加代子. 脊髄性筋萎縮症. Clinical Neuroscience. vol.38. no.3.
[4]内田恵理子ら. 遺伝子治療の現状と課題(世界と日本). Clinical Neuroscience. vol.38. no.3.