SGLT2阻害薬、糖(糖尿病専門医)から見るか心(循環器専門医)から見るか
司会「本日は最近心不全の適応をとった糖尿病治療薬SGLT2阻害薬に関して、糖尿病内科の立場および循環器内科の立場からそれぞれどのような症例に使用されているかなど、座談会形式でご意見を伺いたいと考えております。今回は糖尿病専門医のA先生(以下A)、B先生(以下B)、循環器内科専門医のC先生(以下C)に来ていただきました。よろしくお願いいたします。」
司会「今回のテーマですが、皆様から意見を持ち寄り、SGLT2阻害薬の心不全での内服の優先順位、糖尿病薬としての内服の優先順位、各科による使用感を議論いただくこととします。それでは心不全の内服の優先順位から始めさせていただきます。」
■左室駆出率の低下した心不全ではSGLT2阻害薬の使用は標準治療薬の後となる。
A「今の心不全の標準治療はどこまでが標準と考えられていて、ダパグリフロジン(フォシーガ)(図1)やエンパグリフロジン(ジャディアンス)(図2)などのSGLT2阻害薬はどのようなケースで用いられるのでしょうか。また、糖尿病内科では内服開始時に500ml程度の水分補給を促すことが多いのですが、そのようなことはあるのでしょうか。」
図1
図2
C「まず心不全ですが、左室駆出率で分類されます。左室駆出率(LVEF)が保たれた心不全(Heart Failure with preserved Ejection Fraction:HFpEF、LVEF50%以上)、LVEFが軽度低下した心不全(Heart Failure with mid-range Ejection Fraction:HFmrEF、LVEF40%以上50%未満)、LVEFの低下した心不全(Heart Failure with reduced Ejection Fraction:HFrEF、LVEF40%未満)に分類されます。HFpEF、HFmrEFに関しては最近ジャディアンスの有用性が発表されましたが、まだ薬物療法が十分ではありません。」
C「そのためHFrEFの標準治療について説明します。HFrEFの治療ではACE阻害薬もしくはARBおよびβ遮断薬は必須です。
また、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)も腎不全や高K血症の問題がなければほぼ全例に導入しております。以上が標準治療です。
SGLT2阻害薬に関しては上記標準治療を行ってもさらなる利尿が必要な患者に対して投与を行なっている印象です。また、糖尿病を併発していればほぼ全例投与していると思います。
その他、ループ利尿薬では利尿が不十分な症例や、ループ利尿薬でCr値が上昇してきた症例などでループ利尿薬を減量して追加することもあり、体液管理の役割が大きいと感じています。そのため、患者さんに内服時に水分を余分に摂取するように勧めることはありません。」
A「そうすると心不全の治療薬としては3剤目くらいの立ち位置で、SGLT2阻害薬のみの治療は基本的にはないのでしょうか。」
C「そうですね、3-4剤目くらいです。SGLT2阻害薬のみの治療はまずありません。」
B「ループ利尿薬との合わせ技など考えるのですね、勉強になります。フォシーガですと慢性腎不全の適応もとったため、腎保護効果も兼ねて処方している糖尿病内科医もいますが、循環器内科医はやはり体液管理なのですね。eGFRの数値でSGLT2阻害薬を使用しないケースなどもあるのでしょうか。」
C「eGFRが低ければ低いほど利尿効果は乏しいと思いますが、明確な基準はありません。ただ、さすがに20を切ると乏しくなってくると思います。」
司会「続きまして、心不全の無い糖尿病患者での内服の優先順位はいかがでしょうか。」
■糖尿病でのSGLT2阻害薬の使用は時に第1選択となる。
B「1番はビグアナイド系薬で2番目にDPP-4阻害薬かSGLT2阻害薬のような位置づけです。日本では経口薬に関して、臓器保護効果の科学的根拠よりも、作用機序で患者ごとに適応を考えている風潮があります。」
A「SGLT2阻害薬を躊躇う理由がなければ、多くの患者さんに処方しています。特に肥満など心血管リスクが高い場合であれば第1選択で使うこともあります。具体的にはBMI30以上、心血管既往あり、糖尿病腎症2期以降(尿アルブミンが30mg/g・Cre)だと積極的に使用しています。」
A「DPP-4阻害薬との違いは、DPP-4阻害薬は副作用がなく使いやすい。SGLT2阻害薬は心血管に関するいいデータが多いから使いたい、と言ったような違いですね。」
B「日本は高齢でやせ型の糖尿病患者も多いので、DPP-4阻害薬は禁忌が少なく、単独で低血糖も起こさないインスリン分泌促進を行う使いやすい薬で、一般医としてストレスなく処方しやすいのもあると思います。」
C「ありがとうございます。糖尿病内科の先生からも重要視されているということですね。」
司会「最後に使用感はどうでしょうか。」
■SGLT2阻害薬を使用する場合、サルコペニアの悪化、尿路感染に注意する。
B「心不全で要介護が高く、寝たきりとはいかないまでも臥床時間が長く、尿路感染リスクが高い患者さんにはあまり使わない、といったことがあるのか気になります。」
C「標準治療でもコントロール困難な場合は、寝たきりに近い方でも処方すると思います。」
A「ADLが低い患者にも処方するといった点が糖尿病で使うケースと大きく異なる部分で、大事な点だと考えます。寝たきりに近いADLなどサルコペニアのリスクが高い方には使用を控えることが多いです。」
C「そうなのですね、サルコペニアのリスクが高い患者には処方しないといった考えはありませんでした。SGLT2阻害薬はサルコペニアを悪化させるのでしょうか。」
A「約200kcalくらいは尿に排出すると言われていて、十分な栄養が確保出来ないと、筋力低下につながる事が言われています。
私は高齢者に処方する時には食事の量は変えない事を意識してもらう、少ない人には積極的にタンパク質の摂取を勧める、意識して運動をしてもらう、以上を伝えています。」
C「今後高齢者が増えるにつれ心不全も増えますし、入院による筋力低下もありますので、SGLT2阻害薬を処方した患者はリハビリを積極的に行ない、タンパク質の積極的な摂取を勧める必要がありますね。」
司会「ADLが低下している患者に使用する場合の注意点は他にあるでしょうか。」
B「皮膚炎やカンジダなども起きやすいので陰部の清拭などは不動の患者さんには特に注意が必要と考えます。その他、血糖値が正常でもケトアシドーシスが起こることが報告されていますので、尿ケトンなど意識して検査するようにしています。」
A「糖尿病患者の場合、予後が長くない患者の場合は高浸透圧性高血糖状態になる事を防げれば良い、程度の管理となりますので、サルコペニアの悪化予防、尿路感染症予防のために処方しないことも選択肢となります。」
A「心不全患者の場合、心不全コントロールのメリットが大きく、ADLが低下していても食欲がある人、家族のサポートや施設で定期的にチェックを受けられる、介護のサポートが手厚いなどメリットが上回れば使用しても良いと考えます。逆に心不全のコントロールのためでも、食事摂取量が低い方や陰部のケアが十分にできない方は使用しない方が良いのではないかと考えます。寝たきりの心不全でも使う場合は上記をしっかりとインフォームドコンセントしてもらうのが良いと考えます。」
C「心臓への効果以外のSGLT2阻害薬を処方する際の注意点についてとても勉強になりました。」
司会「まとめますと、SGLT2阻害薬は
・心血管イベントを抑制するエビデンスのある良い薬である
・寝たきりなどADLが低い患者にはサルコペニア悪化や尿路感染症のリスクがある
・タンパク質摂取や陰部ケアを勧めるなど使用時に注意する必要がある
ということですね。」
司会「以上で『SGLT2阻害薬、糖(糖尿病専門医)から見るか心(循環器専門医)から見るか』を閉めさせていただきます。本日はありがとうございました。」