SDGs:専門医による大腸癌セッション

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司会「本日は大腸癌治療ガイドラインに掲載されている薬物療法に関して、消化器内科および消化器外科の立場から座談会形式でご意見を伺いたいと考えております。まずは各先生から自己紹介をお願いします。」

消化器外科専門医A先生(以下A)「私の専門は肝胆膵外科になりますが、病院内では一般消化器外科という立場です。外科医として様々な手術症例を経験していますが、化学療法にも力を入れており、癌薬物療法専門医の取得も目指しています。」

消化器外科専門医B先生(以下B)「私の専門は消化器外科になります。現在大学院生という立場であるため研究がメインですが、昼間は手術・化学療法外来を担当しています。」

消化器内科専門医C先生(以下C)「私は三次救急病院の内視鏡センター長として勤務しております。専門は肝胆膵内科になり、ERCPの件数は県内でトップ3に入る施設でありますが、肝臓癌をメインとした化学療法も数多く経験しています。」

司会「今回のテーマですが、皆様から意見を持ち寄り、エルプラット(一般名:オキサリプラチン)の副作用と、アバスチン(一般名:ベバシズマブ)・ベクティビックス(一般名:パニツムマブ)・アービタックス(一般名:セツキシマブ)などの分子標的薬について議論いただくこととします。」

 

■エルプラットの蓄積性神経障害には休薬しかない

A「エルプラットから始めます。副作用については、痺れ、アレルギー、血小板減少が問題になると思います。蓄積性の痺れについては、対策は休薬しかないと考えます。」

B「イシヤクでの専門医コメントにも適宜減量・休薬する以外に治療法がなく、症状が進行すると改善に時間を要すると記載されていますね。」

 

C「エルプラットの副作用に関しまして、教科書的には急性の神経障害と蓄積性の神経障害があると思われますが、問題となるのはやはり後者ですよね。しかし非常に遷延することが多い印象で、個人的には休薬ではなくレジメン変更を考慮します。蓄積性の神経障害であれば、どのくらい休薬するべきか、また再開した時の再発頻度などのデータがあれば教えていただきたいです。」

A「蓄積性の慢性神経障害は累積投与量に依存して発症します。総投与量が850mg/m2に達すると約10%の患者にGrade3以上の痺れを認めると報告されています。またGrade3からの回復期間中央値は13週間でした。」

C「ありがとうございます。神経障害に疼痛を伴った場合は特に治療に難渋するのですが、タリージェ(一般名:ミロガバリンべシル酸塩)やリリカ(一般名:プレガバリン)、その他サインバルタ(一般名:デュロキセチン塩酸塩)を使用しています。何かご意見有ればご教授頂けないでしょうか。」

A「痺れに対する薬剤のエビデンスは次の通りです。牛車腎気丸・Mg/Ca剤・ビタミンEについては予防効果が否定されています。グルタチオンについては小規模プラセボ対照試験において神経障害の減少が示されていますが、大規模試験での検討はされていない状況です。プレガバリンは神経障害性疼痛について保険適応がありますが、オキサリプラチンの神経障害への十分なエビデンスに関してはありません。デュロキセチンは小規模な試験において、オキサリプラチンの神経障害の疼痛軽減が示されています。

B「とても勉強になります。サインバルタを使用したことがありませんでした。」

A「蓄積性神経障害に疼痛を伴うまで進行してしまうと、なかなか対処不能ですよね。神経障害性疼痛の薬を投与するけれど、効かない印象です。私は基本的にはクール開始時までしびれが残っていた場合は減量しますし、それでも悪化するなら2nd lineへ変更します。」

A「次にアレルギーについてはいかがでしょうか。1度発症してしまった場合、次回投与時には抗ヒスタミン薬とステロイドを前投薬して、一段階減量して再チャレンジしています。皆様どのようにされていますか?」

C「同様ですが、減量せずに同用量で進めることが多いです。」

A「なるほど。では、血小板減少についてはいかがですか。私は休薬しかないと思いますが、休薬して回復後は、2nd lineに変更してしまいます。血小板減少する患者様は、化学療法を続けられないような場合が多い気がしますが、印象としてどうでしょうか?」

C「血小板減少については休薬後、減量しても血小板減少が続いてしまうならレジメン変更を検討します。一方、先生が言われる様に変更しても化学療法を続けられないことが多い印象です。

 

■分子標的薬の使い方

B「アバスチンなどの分子標的薬についてはいかがでしょうか。私はアバスチンについて、タンパク尿と高血圧を注意しています。尿定性でタンパク2+となれば、UPCR(Urine Protein Creatinine Ratio:尿蛋白/尿中クレアチニン比) 2以下なら継続です。高血圧は、腎血管保護も含めてARB、ACE-Iを使用しています。」

A「私も同様です。しかし、アバスチンは本来ならUPCRに関係なく尿タンパク2+で休薬でしたよね。変更ありましたか?」

C「アバスチンは蛋白2+以上がGrade2で減量だったはずです。私も2+で減量しています。」

B「アバスチンもサイラムザ(一般名:ラムシルマブ)のようにUPCR測って、ギリギリまで使ってしまっていました…ご指摘ありがとうございます。」

A「尿タンパク3+でもUPCR2以下なら使用可能といわれています。これはアバスチンと同じVEGF阻害剤であるサイラムザで始まった話で、それをアバスチンにも適用すれば投与回数が増えるということです。最近は比較的スタンダードになった気がします。ですので、私は先生の使い方で良いと考えますよ。」

A「EGFR抗体薬の話をしてもよろしいでしょうか?ベクティビックスとアービタックスを使い分けていますか?私は1st lineで必ずアービタックスを使います。理由として、低Mg血症が発生しにくいことと、late lineにおいてベクティビックスの有効性は示されていますので、後に取っておきたいからです。皆様はどのように考えていますか?」

B「やはり、late lineで有効性が示されているベクティビックスを置いておきたいですよね。」

C「イシヤクでも記載されている通り、ベクティビックスの方がEGFRとの親和性が高いため、皮膚毒性や低Mg血症の頻度が高いとされていますが、Infusion reactionはアービタックスの方が多いとされています。低Mg血症の対策をどの段階からされていますか?」

A「Grade2だとMg値が回復しない気がしますので低Mg血症にはGrade1から硫酸Mgを補充します。」

C「私はマグネシウムの補正を行う際は、grade1の段階で早めに投与して重症化を防いでおります。」

司会「まとめますと、

・エルプラットに関しては痺れ、アレルギー、血小板減少に注意を要し、蓄積性の痺れについては適宜減量・休薬する以外に方法がない
・アバスチンに関しては基本的に、尿定性でタンパク2+となれば休薬する
・ベクティビックス/アービタックスに関しては、late lineで有効性が示されているベクティビックスを温存するため、皮膚毒性や低Mg血症の頻度が少ないアービタックスから始めることが多い

ということですね。」

司会「以上で『SDGs:専門医による大腸癌セッション』を閉めさせていただきます。本日はありがとうございました。」