もともと毒ガスだったものも!? 意外なところで発見された薬剤を紹介

もともと毒ガスだったものも!? 意外なところで発見された薬剤を紹介

日常的に使っている薬剤が、意外なところや経緯で見つかったものであることを知っていますか。最近の薬剤は、作用機序にダイレクトに作用するように設計・開発されるなど創薬は非常に精密化されています。例としては、関節リウマチ治療薬のJAK阻害薬です。

当初期待された作用だけでなく、別の視点から新たな発見があり開発された薬がいくつかあります。今回は、リウマチ・膠原病領域で現在使われているエンドキサン®️とプラケニル®️の2つを紹介しましょう。

シクロホスファマイド(エンドキサン®️)は毒ガスから発見

イシヤクにおいてエンドキサン®️は、各種レジメンで使用されている抗がん剤として掲載されています。治療抵抗性のリウマチ・膠原病疾患に対する免疫抑制剤です。1962年に発売されました。しかし、まだまだ現役で使用されている抗がん剤です。

もともと毒ガスだったエンドキサン®️が開発された経緯

エンドキサン®️は、化学兵器のびらん剤であるナイトロジェンマスタードの誘導体です。ナイトロジェンマスタードは毒ガスで、皮膚のただれや水疱の発生等の症状を起こします。第一次世界大戦中に開発された毒ガスであるマスタードガスを改良し、アメリカとドイツが開発した成分です。第一次世界大戦中には、マスタードガスで亡くなった兵士が著明なリンパ系の低形成化と骨髄抑制を呈しました[1,2]。

エール大学医学部の薬理学者Louis GoodmanとAlfred Gilmanは、マスタードガスがリンパ系腫瘍に効果があるのではないかと仮説を立てました[1]。リンパ肉腫を移植したネズミでナイトロジェンマスタードの腫瘍への効果を確認[3]。そして1942年5月、GoodmanとGilmanは非ホジキンリンパ腫の症例にナイトロジェンマスタードを投与し、腫瘍を縮小させることに成功します。ナイトロジェンマスタードは毒性がまだまだ高く、改良を重ねエンドキサン®️の開発に至りました[4]。
現在におけるエンドキサン®️の役割は抗がん剤レジメンで重要
エンドキサン®️は、悪性リンパ腫治療のCHOP療法の「C」です。他の抗がん剤レジメンでも使用されています。投与量を調整して免疫抑制剤としても、リウマチなど膠原病疾患の治療に使われている薬剤です。

ナイトロジェンマスタードの臨床応用の経緯に異説あり

第二次世界大戦でマスタードガスを積んだアメリカ海軍輸送船「ジョン・E・ハーヴェイ号」が1943年12月2日にドイツ軍に爆撃されました[5]。バーリ空襲として有名ですね。そして、マスタードガスで被害をうけた兵士の報告[6]から、GoogmanとGilmanは発想を得たと、ちまたでは説明されていることがあります。しかし、これは間違いです。

というのも、時系列が合いません。1942年にGoodmanとGilmanはリンパ腫の症例にナイトロジェンマスタードの投与に成功しました。しかし、ナイトロジェンマスタード関連の情報は機密情報であったため、彼らは1946年になってやっと発表できたのです。つまり、バーリ空襲から発想を得たというのは間違いだとわかります。
ヒドロキシクロロキン(プラケニル®️)はもともとマラリアの治療薬
イシヤクではプラケニル®️は、全身性エリテマトーデスや皮膚エリテマトーデスで使用される薬剤だと掲載されています。基本的に禁忌がなければ、全身性エリテマトーデスの全例への使用が推奨されている重要な薬剤です。

プラケニル®️が全身性エリテマトーデスに使用されるのに至った経緯

ヒドロキシクロロキンは、抗マラリア薬であるクロロキンを改良したものです。そしてクロロキンは、キナクリンという初期の合成抗マラリア薬から改良されました。

第二次世界大戦中、東アジアへ従軍するアメリカ軍兵士にマラリアの予防としてキナクリンやクロロキンが投与されます。そのなかで、もともと皮疹や炎症性関節炎をもつ兵士の症状が軽減することが発見されました[7]。

これにより自己免疫性疾患に対して、抗リウマチ薬が効くのではないかと考えられたのです。そして1951年にFrancis Pageが、全身性エリテマトーデスに対する抗マラリア薬の有効性を報告しました[8]。これ以降、経験的に倦怠感、発熱、関節炎に抗マラリア薬は有効だと認識されています。

1991年にプラケニル®️の有効性を確認するためプラセボコントロール研究がおこなわれました。その結果、エビデンスをもって全身性エリテマトーデスに対する有効性が証明されました[9]。
現在におけるプラケニル®️の役割
多くの観察研究から、プラケニル®️は全身性エリテマトーデスの臓器障害発生リスク[10,11]、死亡リスク[12-14]、血栓症リスク[12]などを低下させる効果があります。現在では、欧州リウマチ学会のガイドライン[15]では、プラケニル®️は禁忌や使用できない症例以外はすべての症例で使用することが推奨されています。
意外なところから見つかって現在も使用されている薬剤:リウマチ・膠原病関係
今回、もともと期待された作用ではなく意外なところから現在の薬効が発見され、現在もリウマチ・膠原病疾患で臨床応用されている薬剤を紹介しました。普段、診療で使用している薬剤のルーツを知ることは、おもしろいかもしれませんね。

執筆:MajorTY@膠原病内科

参考文献
[1] Chemotherapy and the war on cancer.
[2] The Blood and Bone Marrow in Yelloe Cross Gas (Mustard Gas) Poisoning: Changes
produced in the Bone Marrow of Fatal Cases.
[3] The biological actions and therapeutic applications of the B‐chloroethyl amines and sulfides.
[4] Successful Drug Discovery.
[5] Marshall EKJR. Historical perspectives in chemotherapy. In: Golding A, Hawking IF,
editors. Advances in chemotherapy, vol. New York: Academic Press; 1964. p. 1–8.
[6] The poisonous history of chemotherapy.
[7] Hydroxychloroquine: From Malaria to Autoimmunity.
[8] TREATMENT OF LUPUS ERYTHEMATOSUS WITH MEPACRINE.
[9] A Randomized Study of the Effect of Withdrawing Hydroxychloroquine Sulfate in Systemic Lupus Erythematosus.
[10]Systemic lupus erythematosus in three ethnic groups: XVI. Association of
hydroxychloroquine use with reduced risk of damage accrual.
[11]Protective effect of hydroxychloroquine on renal damage in patients with lupus nephritis:
LXV, data from a multiethnic US cohort.
[12]Effect of antimalarials on thrombosis and survival in patients with systemic lupus
erythematosus.
[13]Effect of hydroxychloroquine on the survival of patients with systemic lupus
erythematosus: data from LUMINA, a multiethnic US cohort (LUMINA L).
[14]Antimalarial treatment may have a time-dependent effect on lupus survival: data from a
multinational Latin American inception cohort.
[15] 2019 update of the EULAR recommendations for the management of systemic lupus
erythematosus.