【研修医Rシリーズ】末梢性顔面神経麻痺の患者さん、紹介した後はどうなってるの?

【研修医Rシリーズ】末梢性顔面神経麻痺の患者さん、紹介した後はどうなってるの?

研修医R(以下R):あ、T先生、今お時間よろしいですか?
指導医T(以下T):こんばんは、Rさん。どうしたの?
R:私がこの前、内科当直についた時、末梢性顔面神経麻痺の患者さんが受診されました。診断だけつけて、翌日、耳鼻科外来を受診するように誘導したんですけど、その後どんなふうに治療されるのか知りたくて……
T:なるほど。顔面神経麻痺の患者さん、救急外来ではしばしば見かけるよね。
R:そうなんです。初期治療について知識が曖昧で、早めにステロイドを使った方がよいことまでは知っているのですが……
T:私も研修医の時はそうだったな。じゃあ、顔面神経麻痺の初期診断や予後判定から治療法まで、なぜ耳鼻咽喉科へ紹介がよいかについて勉強しようか!
R:よろしくお願いします!

重症度診断に客観的な柳原法を覚えよう
T:初期診断はどのようにつけているか教えてくれる?
R:末梢性顔面神経麻痺と診断したら、ベル麻痺とハント症候群を鑑別するため、内耳症状、皮疹を観察します。
T:すばらしい。ハント症候群の場合、予後がベル麻痺にくらべて悪いんだ[2]。重症度判定の方法は知っているかな?
R:たしか柳原法でしたっけ?詳細はちょっと覚えていなくて……
T:そんなに難しくないのでこの機会に覚えよう。

柳原法は以下の10項目を評価する方法だよ。
・安静時の表情
・前額のしわよせ
・弱い閉眼
・強い閉眼
・ウインク
・鼻翼
・イーの口
・口すぼめ
・頬をふくらます
・口への字

それぞれの項目で以下のように点数をつけるよ。
・0点(筋収縮無し)
・2点(収縮あるが左右差あり)
・4点(左右差なく収縮良好)

R:10項目4点ずつだと40点が満点ですね。何点くらいがしきい値になるのですか?
T:20点以上は軽症、10〜18点を中等症、8点以下を重症と判断するんだ。柳原法8点以下は完全麻痺と呼ぶこともあり、予後不良を示す所見だよ[1]。ほかにHouse-blackmann法という評価法もあるけど、柳原法の方が客観的だし、予後推定に有用なので覚えよう。
R:自分で顔を動かしながらやると、覚えられる気がします。

予後推定に有用なアブミ骨筋反射と刺激誘発筋電図検査
T:顔面神経麻痺全体では、7〜8割程度の人は改善するといわれている。比較的予後のよい疾患ではあるんだけど[1,3,4]、治らない人もいるので予後推定は重要なんだ。予後を推定するための検査がいくつかあるんだけど、知っている?
R:先ほどの柳原法と、確か聴力検査と筋電図だったような……
T:聴力検査はハント症候群の鑑別に用いるけど、予後推定に役立つのはアブミ骨筋反射という簡便な検査だね。強大音による内耳障害をふせぐため、アブミ骨筋が収縮して大きな音が伝わるのを防ぐ反射がある。顔面神経は、この筋肉をつかさどっているから、発症早期であってもアブミ骨筋反射が陽性に保たれていれば、治癒する可能性が高いんだ[1]。
R:簡単にできる検査で予後判定できるんですね。
T:もうひとつは刺激誘発筋電図検査で、電気刺激によって顔面筋の筋収縮を健側と患側で比較するものだ。発症から10〜14日での施行が理想だよ。刺激誘発筋電図の結果は以下の様に解釈できるんだ[5]。

・40%以上はほぼ1ヶ月以内の早期に治癒
・20−40%は数ヶ月程度かかるが治癒
・10−20%はほぼ治癒するが最大半年〜1年かかる
・10%以下は治らない確率が高い
・0%はほとんど治らない
R:予後だけでなく、治る時期まで予想できるとは有用な検査ですね。

治療の基本は早期のステロイド全身投与と抗ウイルス薬
R:治療はやっぱりステロイドですか?
T:そうだね。副腎皮質ステロイドの全身投与はSystematic Reviewでも有効性が確認されている[3,6]。投与量はプレドニゾロン60㎎から、1週間~10日間かけて漸減投与とすることが多い。最近は重症例では120㎎へ増量する試みもなされている[1,7]けれど、増量が有効という確たるエビデンスはまだない[8]。発症から1週間以内の投与が望ましいのも覚えておこう。
R:単純ヘルペスウイルスと帯状疱疹ウイルスへの治療はどうしたらよいですか?
T:抗ヘルペスウイルス薬は増殖防止が機序なので、できれば発症3日以内に投与したい。ベル麻痺は単純ヘルペスへの投与量を投与する。ハント症候群の徴候がそろわなくても、疑ったら帯状疱疹への投与量を設定しよう[1]。一般的な抗ヘルペスウイルス薬は、腎機能障害がある場合、アシクロビル脳症を起こす恐れがある[9]。腎機能障害を疑う場合は肝排泄のアメナリーフ®(アメナメビル)を推奨するよ。
R:手術加療もあるって聞いたことがあります。
T:急性期におこなうことがある手術は、顔面神経減荷術だね。顔面神経麻痺では、神経が炎症を起こして浮腫を起こす。顔面神経は側頭骨内で狭い骨の間隙を走行するので、浮腫によって自己絞扼状態となり血行不良を生じるんだ。これに対し、手術で側頭骨内に走行する顔面神経を狭い骨の間隙から開放する。すると、除圧されることにより神経の絞扼を解除、回復の手助けをすると考えられているよ[10]。ただし、発症1ヶ月以内でないと効果が薄いと考えられるので、施行時期には注意したいね。
R:手術で治るならバンバン手術すればよいのでは?
T:それが、単施設レベルでは改善の報告があるけど、エビデンスレベルの高い研究による有効性は今のところ示されていないんだ[11]。私は、刺激誘発筋電図検査の結果が5%以下で、患者が希望した場合に施術を検討しているよ。
R:治療のオプションが提示できるだけでも、耳鼻咽喉科に受診する意味があると思います。

末梢性顔面神経麻痺は診断後早期に耳鼻咽喉科へ誘導しよう
R:顔面神経麻痺というと、神経内科や脳神経外科へ初診で送られるケースも多いと思いますが、耳鼻咽喉科に送るとできる検査や治療の選択肢が多いのですね。
T:顔面神経麻痺は致命的ではないが、顔貌変化というQOLに直結する可能性のある疾患なんだ。だからこそ、初期治療と疾患の説明が適正におこなわれたかどうかは重要だと思う。
R:当直をやっていると見かけることがありますので、柳原法は頑張って覚えます!手術があるときは教えてください!
T:よし、その意気だ!

執筆:音良林太郎
文字:2543文字(タイトル抜き、見出し込み)

1. 信五村上. 顔面神経麻痺の診断と治療. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 2012;115: 118–121.
2. 齊藤 雄, 伊藤 博之, 岡吉 洋平, 塚原 清彰. Bell麻痺77例とHunt症候群32例の検討. 耳鼻咽喉科臨床. 2016. Available: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibirin/109/10/109_689/_article/-char/ja/
3. Madhok VB, Gagyor I, Daly F, Somasundara D, Sullivan M, Gammie F, et al. Corticosteroids for Bell’s palsy (idiopathic facial paralysis). Cochrane Database Syst Rev. 2016 [cited 10 Jun 2022]. doi:10.1002/14651858.CD001942.pub5
4. Sweeney CJ, Gilden DH. Ramsay Hunt syndrome. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2001;71: 149–154.
5. Haginomori S. Techniques in Prognostic Diagnosis for Facial Palsy Using Electroneurography (ENoG). Pract Otorhinolaryngol . 2014;107: 164–165.
6. Monsanto R da C, Bittencourt AG, Bobato Neto NJ, Beilke SCA, Lorenzetti FTM, Salomone R. Treatment and Prognosis of Facial Palsy on Ramsay Hunt Syndrome: Results Based on a Review of the Literature. Int Arch Otorhinolaryngol. 2016;20: 394–400.
7. Fujiwara T, Haku Y, Miyazaki T, Yoshida A, Sato S-I, Tamaki H. High-dose corticosteroids improve the prognosis of Bell’s palsy compared with low-dose corticosteroids: A propensity score analysis. Auris Nasus Larynx. 2018;45: 465–470.
8. Giri P, Garg RK, Singh MK, Verma R, Malhotra HS, Sharma PK. Single dose intravenous methyl prednisolone versus oral prednisolone in Bell’s palsy: a randomized controlled trial. Indian J Pharmacol. 2015;47: 143–147.
9. 吉正土屋, 俊平山中, 真由子岸本, 育恵内田, 徹也小川, 保志藤本. 高齢者の顔面神経麻痺治療中に発症したアシクロビル脳症例. 耳鼻咽喉科臨床. 2021;114: 581–586.
10. Lee S-Y, Seong J, Kim YH. Clinical Implication of Facial Nerve Decompression in Complete Bell’s Palsy: A Systematic Review and Meta-Analysis. Clin Exp Otorhinolaryngol. 2019;12: 348–359.
11. Menchetti I, McAllister K, Walker D, Donnan PT. Surgical interventions for the early management of Bell’s palsy. Cochrane Database Syst Rev. 2021 [cited 10 Jun 2022]. doi:10.1002/14651858.CD007468.pub4