最近の注目の心不全内服治療薬について専門医が解説

心不全は心疾患の中で死亡原因として一番多い疾患です。心不全の数は、今後も増加が予測されています。心不全の中で、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)に対して最近注目を浴びている、サクビトリルバルサルタンナトリウム(エンレスト®)とSGLT2阻害薬について症例を通じてどのような病態に使用すべきかを提案します。

実際の症例
50代の男性、既往に糖尿病性腎症(eGFR 45mL/min/1.73m2)、高血圧、心筋梗塞、うっ血性心不全で入院歴あり。1週間の息切れで外来を受診した。内服はバイアスピリン、レニベース5mg、クレストール5mg、アーチスト5mg分2、ラシックス20mg、アルダクトン25mg。血圧150/90、心拍数90bpm。検査で両側胸水及びBNPの上昇を認め、急性心不全として入院となる。左室駆出率は35%と低下。

心不全は入院するたびに予後が悪化する病気です。内服の調整は再入院の予防に大きく影響するため、循環器内科医の腕の見せどころです。

標準治療ではコントロールしきれないHFrEFに使用されるエンレスト
HFrEFの標準治療は、長い間ガイドラインにおいてARBまたはACE阻害薬、βブロッカー、そしてミネラルコルチコイド阻害薬でした。しかし、これだけでは症状やイベントがコントロールできない患者さんもいます。そのため、HFrEFに対する新しい治療薬の登場が待たれていました。本症例は心不全入院を繰り返しており、エンレストのよい適応です。

エンレストとは?
エンレストは、バルサルタンというARBと、ネプリライシンというナトリウム利尿ペプチドを切断する酵素を阻害するサクビトリルの合剤です。イメージとしてはARB+利尿剤です。HFrEFに対する標準治療の一角であるACE阻害薬と比較して、心不全入院を21%減少、また心不全の症状も優位に改善し、一躍有名となりました[1]。

 

エンレストの臨床での使い方
エンレストは、ナトリウム利尿ペプチドの作用が加わる分、血圧が低下しやすい傾向があります。まずは100mg〜200mg分2で開始して、忍容性を確認しましょう。目標は臨床試験で使用された400mg分2ですが、そこまで増量できない症例もそれなりに存在します。

導入時期は、うっ血が解除されてからをおすすめします。なぜなら、うっ血解除のために利尿剤を増量している間は血圧の変動がしやすいからです。エンレスト追加により血圧変動や利尿効果が加わり、腎機能が思ったより悪化してしまう可能性があります。今回の症例では、血圧はやや高めのため、200mg分2で開始しました。

 

エンレスト導入後
血圧は110〜120台へと安定しました。ただし本症例では、糖尿病性腎症も合併しており、まだ心不全増悪での再入院リスクは高いままです。次に、さらなる治療として検討すべきSGLT2阻害薬について説明します。

心臓にも腎臓にも効くSGLT2阻害薬!
エンレストの登場からわずか数年後に、SGLT2阻害薬が登場しました。標準治療に追加投与することで、心不全イベントを減少させます。これにより、治療選択肢は更に広がりました。

SGLT2阻害薬とは?
SGLT(ナトリウム/グルコース共輸送体)2阻害薬は、尿細管で糖の再吸収を阻害して糖を尿中に排泄させ、血糖値を低下させる薬です。イメージとしては尿から余分な糖をだしてしまえ!という感じです。HFrEFの標準治療を既に受けている患者に対して驚くことに「糖尿病に有無に関わらず」心不全または心血管死を26%減少させ、一躍脚光を浴びました[2]。

SGLT2の腎保護効果が確認された臨床試験では、糖尿病で蛋白尿を有する患者が対象でしたが、蛋白尿を有しない慢性腎臓病への腎保護効果も確認されています[3]。また最近ダパグリフロジン(フォシーガ®)は「2型糖尿病の合併の有無に関わらず」慢性腎不全の進行を抑制しました[4]。

 

SGLT2阻害薬の臨床での使い方
SGLT2阻害薬は、HFrEFと慢性腎不全を併発している今回のような症例では、導入しない理由はほぼありません。心不全患者では、尿量測定のためにバルーンが留置されることが多くあります。しかし、SGLT2阻害薬は尿路感染のリスクがあるため、バルーン抜去後に導入しましょう。心不全では利尿剤を併用することが多いため、脱水による腎機能悪化も懸念されます。しかし臨床試験では、腎機能の悪化はプラセボと比較して、SGLT阻害薬の方が少なかったと報告されました[2]。

導入時期としては、うっ血が解除できて、バルーンが抜去されて食事量が安定したらでよさそうです。エンレストは低血圧のリスクがあるため、腎機能の悪化には注意が必要です。SGLT2阻害薬はその点、使いやすい薬です。この症例では、臨床試験で使用された用量のフォシーガを10mg分1で処方します。フォシーガは「糖尿病の有無に関わらず」HFrEFにも慢性腎臓病にも効果が確認されており、使い勝手がよいと感じました。特に両疾患が併存している場合には、一粒で二度おいしいですね。本症例では、HFrEFに糖尿病性腎不全を合併しかつ心不全をくり返しているため、エンレストとSGLT2阻害薬、両方のよい適応と考えます。
エンレストとSGLT2阻害薬でHFrEFの予後は更によくなる!
この記事ではHFrEFに対する、最近エビデンスの確立したエンレストとSGLT2阻害薬について解説しました。これらの薬剤を積極的に使用して、心不全入院を予防しましょう。

 

[1] McMurray JJ, Packer M, Desai AS, Gong J, Lefkowitz MP, Rizkala AR, Rouleau JL, Shi VC, Solomon SD, Swedberg K, Zile MR; PARADIGM-HF Investigators and Committees. Angiotensin-neprilysin inhibition versus enalapril in heart failure. N Engl J Med. 2014;371(11):993-1004.

[2] McMurray JJV, Solomon SD, Inzucchi SE, Køber L, Kosiborod MN, Martinez FA, Ponikowski P, Sabatine MS, Anand IS, Bělohlávek J, Böhm M, Chiang CE, Chopra VK, de Boer RA, Desai AS, Diez M, Drozdz J, Dukát A, Ge J, Howlett JG, Katova T, Kitakaze M, Ljungman CEA, Merkely B, Nicolau JC, O'Meara E, Petrie MC, Vinh PN, Schou M, Tereshchenko S, Verma S, Held C, DeMets DL, Docherty KF, Jhund PS, Bengtsson O, Sjöstrand M, Langkilde AM; DAPA-HF Trial Committees and Investigators. Dapagliflozin in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction. N Engl J Med. 2019;381(21):1995-2008.

[3] Nagasu H, Yano Y, Kanegae H, Heerspink HJL, Nangaku M, Hirakawa Y, Sugawara Y, Nakagawa N, Tani Y, Wada J, Sugiyama H, Tsuruya K, Nakano T, Maruyama S, Wada T, Yamagata K, Narita I, Tamura K, Yanagita M, Terada Y, Shigematsu T, Sofue T, Ito T, Okada H, Nakashima N, Kataoka H, Ohe K, Okada M, Itano S, Nishiyama A, Kanda E, Ueki K, Kashihara N. Kidney Outcomes Associated With SGLT2 Inhibitors Versus Other Glucose-Lowering Drugs in Real-world Clinical Practice: The Japan Chronic Kidney Disease Database. Diabetes Care. 2021;44(11):2542-2551.

[4] Heerspink HJL, Stefánsson BV, Correa-Rotter R, Chertow GM, Greene T, Hou FF, Mann JFE, McMurray JJV, Lindberg M, Rossing P, Sjöström CD, Toto RD, Langkilde AM, Wheeler DC; DAPA-CKD Trial Committees and Investigators. Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2020;383(15):1436-1446.