止まらないしゃっくりは神経難病かも!?視神経脊髄炎について解説

「しゃっくり」と聞いて、あなたはこう思うかもしれません。「しゃっくりなんて、横隔膜がけいれんしているだけで、病気なんかじゃないよ」。

しかし、中にはしゃっくりがおさまらず、病院に受診する人もいます。多くの原因は消化器系疾患と関連することから、胃薬や制吐剤で経過を見るように言われて帰宅します。ところが、その後しばらくして、目が見えない、足がしびれるなどの神経症状を呈し、思いがけず神経難病と診断されることも。「視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica spectrum disorder; NMOSD)」という神経免疫疾患かもしれません。

この記事では、しゃっくりを症状とする難病の視神経脊髄炎について解説します。

しゃっくりを呈するNMOSDとはどんな病気?

ひとつの症例を示しましょう。40代の女性でIT系の会社で働いているAさんです。

Aさんはある休日、急にしゃっくりが出現しました。1日たってもおさまらないので、近くの消化器内科を受診。医師に「逆流性食道炎の可能性がある」と言われ、胃内視鏡検査を受けましたが、特に異常はなかったのです。しゃっくりは2週間ほど続いて、自然におさまりました。

ところが、それから3か月たったある日、Aさんは急に右眼が見えにくいことを自覚。近くの眼科を受診しましたが、原因がわからず、大学病院に紹介されました。1週間後、大学病院の眼科を受診時に、すでに右眼視力は1.5だったのが0.01まで低下。先生から「ある抗体が陽性なので、脳神経の病気かもしれない」と言われ、今度は脳神経内科へ紹介されます。

脳神経内科ですぐに入院し、ステロイドパルス療法などを受けましたが、視力はほとんど戻りませんでした。退院後、Aさんは視力低下の後遺症のため、PC作業をすることが困難となり、部署の配置換えをされてしまいました。

NMOSDは以前、Devic病と呼ばれ、多発性硬化症(Multiple Sclerosis; MS)のひとつの亜型と考えられてきました。しかし、2004年にNMOSDの原因として抗アクアポリン4(AQP4)抗体が同定され、MSとは機序が異なる新たな疾患概念として確立。NMOSDの再発は劇的であり、大きな後遺症が残ることから、いかに再発予防をおこなうかが重要視されています。患者数は日本に約4000人いると想定されており、その多くは現役世代の女性です。主な症状としては、難治性のしゃっくりや視力低下、排尿障害、手足の麻痺や感覚障害などがあります。

NMOSDを疑ったら、すぐに脳神経内科に紹介しよう

しゃっくりだけでなかなか、神経疾患を考える医師は少ないかと思います。しかし、数週間も続くしゃっくりを診たときは、NMOSDを鑑別にあげてみましょう。難治性のしゃっくりは延髄背側の最後野の病変で起こり、NMOSDに特徴的な症状です。最後野に病変を認めるNMOSD患者様が、高率に数週間後に脊髄炎を起こすというデータもあり[1]、早期診断が重要な疾患でもあります。

最近の論文では、急性期治療を早めにおこなうことが重要であるとわかっており[2]、発症後の1年以内の再発が最も多いと知られています[3]。原因がわからない難治性のしゃっくりは、脳神経内科に一度紹介しましょう。

NMOの診断に必要な検査;MRIと抗AQP4抗体

すぐに脳神経内科に受診できない場合、とりあえず施行すべき検査は次の2つです。

・MRI(しゃっくりの場合は頭部)

・血清抗AQP4抗体測定

特に抗AQP4抗体は、NMOSDの診断に有用なマーカーです。ただ、注意すべき点は抗AQP4抗体が陰性だからといって、NMOSDは否定できません。現在、保険診療でおこなえる測定法は感度、特異度ともそこまで高くないELISA法です。臨床症状でNMOSDが疑われるときは、Cell-based assayにより、再度測定することが推奨されます。また、抗AQP4抗体以外に抗MOG抗体の関連も明らかになっており、NMOSDの診断をより複雑にしています。

新たに加わった治療;ステロイドからバイオの時代へ

これまで日本では、NMOSDに対する再発予防には主にステロイドが使用されてきました。しかし、2019年以降、ソリリス(エクリズマブ)、エンスプリング(サトラリズマブ)、ユプリズナ(イネビリズマブ)の3つのバイオ製剤が承認されました。それぞれの薬剤の特徴は、下表のようになっており、NMOSDの治療選択には医師と患者様の間で、Shared Decision Makingが重要になると考えられます。

ソリリス エンスプリング ユプリズナ
抗体名 抗C5抗体 抗IL6受容体抗体 抗CD19抗体
再発抑制率

(AQP4陽性患者)

94%(併用) 79%(併用)

74%(単剤)

77%(単剤)
投与頻度(維持期)・経路 2週間に1回、点滴 4週間に1回、皮下注 6か月に1回、点滴
懸念点 髄膜炎菌ワクチン接種が必要 炎症をマスクする可能性 B細胞が減るため、感染リスク大

NMOSDを見逃さないために

この記事では、止まらないしゃっくりを呈するNMOSDという病気について解説しました。NMOSDは、再発すると大きな後遺症を残す可能性があるため、早期に診断をし、すみやかに再発予防薬を使用する必要があります。難治性しゃっくりといった一見、神経疾患とは考えにくい症状でも、NMOSDという疾患を鑑別にあげ、念のため頭部MRIと抗AQP4抗体を検査し、脳神経内科の受診を勧めてみてください。

                                                                                     文責; エスディー@脳神経内科

【参考文献】
[1] Intractable hiccup and nausea in neuromyelitis optica with anti-aquaporin-4 antibody: a herald of acute exacerbations.
[2] Does time equal vision in the acute treatment of a cohort of AQP4 and MOG optic neuritis?
[3] Neuromyelitis optica spectrum disorders with unevenly clustered attack occurrence.