脳神経内科専門医が解説!重症筋無力症診療ガイドライン2022の重要ポイント

重症筋無力症(Myasthenia Gravis:MG)は、易疲労性や呼吸困難感、複視を呈することから、一般内科や眼科でもよく遭遇する神経筋疾患です。2014年に発表されたMG診療ガイドラインは、明確な治療目標を提示したことから、多くの脳神経内科医のMG診療に貢献してきました。ここ数年で、新たな病原性自己抗体の測定や生物学的製剤の使用が可能となり、MG診療が大きく変わろうとしています。今回は、8年ぶりに改訂された新ガイドラインの重要ポイントを脳神経内科専門医が解説いたします[1]。

難治性の自己免疫疾患である重症筋無力症とは?
35歳の女性Aさんは、金融関係の仕事を10年以上続けてきたキャリアウーマンです。3年前に同期と結婚した後も、夫婦で助け合って働いてきました。そんなある日、夕方になると左目のまぶたが上がりにくく、車の運転時に前の車のテールランプが2重に見えることに気づきます。「疲れ目かな……」としばらく仕事のペースを落としてみたものの、毎日のように夕方になるとまぶたが重くなる感じは変わりませんでした。心配になり、近くの眼科を受診しましたが、ストレスだろうと言われ、点眼薬の処方のみで帰されました。
しばらくして、今度はお風呂で洗髪をする際、両手が挙げにくいことを自覚。近くの総合病院の内科を受診し、「ある抗体が上昇しているから、脳神経内科を紹介します」と言われます。脳神経内科ではアイスパック試験など様々な検査を受け、最終的に重症筋無力症と診断されました。ステロイドによる治療を開始され、易疲労性は改善しましたが、満月様顔貌を呈するようになってしまいました。
MGはAさんのような眼瞼下垂や複視、易疲労性に加え、四肢筋力低下、呼吸困難、球症状(延髄にある脳神経核障害による口・舌・喉の運動障害)を呈する神経免疫疾患です。病原性を認める自己抗体として、抗アセチルコリン受容体(AchR)抗体と抗筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体の2つがあり、保険診療内で検査ができます。MGは神経筋接合部の障害によって発症することがわかっており、エドロホニウム(テンシロン)試験、アイスパック試験、反復刺激試験などで評価することが可能です。

重症筋無力症の検査 概要
エドロホニウム(テンシロン)試験 神経と筋肉の間の刺激の伝達を改善させる薬剤(塩化エドロホニウム)を静脈注射して、眼や全身の症状が改善されるかどうかを見る試験
アイスパック試験 冷凍したアイスパックをガーゼなどに包み、2分間まぶたに押し当てて、眼瞼下垂が改善すれば陽性と判定する試験
反復刺激試験 筋肉に反復して電気刺激を送り、得られる波形から、重症筋無力症の特徴である「つかれやすさ」を見る検査。重症筋無力症の場合、波形の振幅が徐々に減ってゆく現象がみられる。

新しい診断基準では血漿浄化療法の有効性を重視
新ガイドラインの診断基準では、MG症状+自己抗体陽性、もしくはMG症状+神経筋接合部の障害の証明と他疾患の鑑別ができていれば、definiteの診断となります。また、MG症状があり、自己抗体が陰性で、神経筋接合部の障害を認めない場合でも、血漿浄化療法が有効であれば、probableと診断されることになりました。
診断基準が新しくなった理由はガイドラインの基本方針が、false negativeを少なくする方針のためです。もうひとつの自己抗体の候補として抗LRP4抗体がありますが、病原性自己抗体としては不明な点があるため、診断基準への記載は見送られました。

早期速効治療戦略EFTでMM-5mgを達成する
治療目標は前回のガイドラインと同様、「経口プレドニゾロン5mg/日以下で、minimal manifestationsレベル(生活、仕事に支障がない微小症状)」、通称「MM-5mg」を達成することです。しかし、最近の報告によると、高用量および長期のステロイド療法は早期のMM-5mg達成には関連しません。そこで、非経口速効性治療(fasta-acting treatment:FT)を用いる、早期速効性治療戦略(early fast-acting treatment strategy:EFT)を積極的におこなうことが推奨されています。
FTには、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン静注療法、血漿浄化療法が含まれます。できるだけ早期にFTをおこない、MM-5mgを達成することが重要です。またガイドラインでは、頻回のFTが必要な症例を「難治性MG」として新たに定義しています。

新しい分類に抗AchR抗体陰性の全身型MGが加わった
前回のガイドラインでは、眼筋型と全身型に分類したのち、全身型は早期発症、後期発症、胸腺腫合併の3つに分類されていました。今回のガイドラインでは、全身型にさらに抗MuSK抗体陽性と病原性自己抗体陰性の2つの分類が加わっています。追加された分類は、症状の出現の仕方や生物学的製剤への反応性が異なることが知られており、プレシジョン・メディシンを想定した分類と考えられます。

まだまだ発展するMG治療:生物学的製剤の開発
今回は、2022年のMG診療ガイドラインについて解説しました。これまでもMG診療ガイドラインは神経免疫疾患の治療に対して、明確な治療方法を示した画期的なガイドラインでした。最新版ではMM-5mgを目指すうえで、EFTの有用性をさらに明確にし、難治性MGを新たに定義しています。難治性MGに対しては、今後、生物学的製剤の使用が考えられます。現在、MGに使用可能な生物学的製剤は、抗C5抗体であるエクリズマブ(商品名:ソリリス)と抗FcRn抗体であるエフガルチギモド(商品名:ウィフガート)ですが、現在も複数の臨床試験が進行中です。今後、新たな治療戦略が出てくる可能性がありますが、まず、重症筋無力症診療ガイドライン2022を読んで、MG診療をアップデートさせましょう。

 

参考文献;
[1]重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022

執筆:エスディー@脳神経内科