タウリンが効く!脳梗塞と間違えやすいミトコンドリア病MELASとは?

当直明けや長時間勤務の合間に、栄養ドリンク剤で英気を養う先生方も多いかと思います。タウリンは、多くの栄養ドリンク剤に含まれるアミノ酸のひとつです。細胞にエネルギーを与えてくれる効能があります。タウリンを服用すれば、細胞が活性化されて元気が出る気がしませんか。

医療用としてタウリンには、高ビリルビン血症における肝機能改善やうっ血性心不全に適応があります。また、ミトコンドリア病のひとつである「Mitochondrial Encephalopathy Lactic Acidosis and Stroke-like episodes(MELAS)における脳卒中様発作の抑制」への適応が最近になり追加されました。今回は、脳梗塞と間違えやすいMELASの特徴とタウリンによる最新の治療を紹介します。

急性発症の意識障害や運動麻痺、それって本当に脳梗塞ですか?
30歳男性が急に意識障害、運動麻痺を発症し、救急車で運ばれてきました。救急当直のあなたは脳卒中を考えて、事前に放射線技師に連絡し、緊急で頭部MRIを撮ってもらえるように交渉済みです。患者さんが搬送されたのは、発症約3時間後。MRIの拡散強調画像で高信号があればt-PAの適応だなと、あなたは検査後の段取りを考えています。結果は思った通り、側頭葉から後頭葉の皮質を中心に高信号を呈していました。あなたは急性期脳梗塞と診断し、t-PA開始を指示し、脳血管内治療の適応まで考えて、脳神経外科の先生にコールを入れようとします。そのとき、放射線技師さんがこうつぶやきました。

「この高信号の場所、なんか普通の脳梗塞と違うんだよね……」
確かに普通の脳梗塞にしては高信号の範囲が広く、患者の年齢も若い。脳塞栓をきたすような心房細動もない……不安に思ったあなたは放射線科医にMRIの読影を依頼しました。放射線科からの回答は「拡散強調画像の高信号は血管支配域と合致せず、脳梗塞は否定的です。むしろMELASや脳炎などを疑います」。あまり聞きなれない病名「MELAS」とはいったいどんな病気なのでしょうか。

脳卒中様発作をきたすMELASとは?
MELASはミトコンドリア病のひとつです。ミトコンドリアの電子伝達系に関与する複数の酵素の活性が低下し、細胞の活動に必要なアデノシン三リン酸(ATP)の産生が抑制されることにより、病気が発症すると考えられています。

最も多い病型であるMELASの特徴的な症状は、頭痛や嘔吐に加え、けいれん、片麻痺、同名半盲や皮質盲などの脳卒中様発作です。他にも、糖尿病、難聴、筋力低下、心筋症など全身の臓器に異常をきたすことがあります。検査所見としては、血中もしくは髄液中の乳酸高値、筋生検での赤色ぼろ線維などの病理所見、遺伝子検査でのミトコンドリアtRNALeu(UUR)などの遺伝子異常、頭部CT、MRIでの大脳皮質を中心とした異常所見が特徴的です。

鑑別のポイントは血管支配域を知っておくこと
検査所見の中でも、画像所見が最も重要です。頭部MRIでは大脳皮質を中心として、拡散強調画像で高信号を認めます。脳梗塞でも同様の所見を呈しますが、MELASの病変には以下の3つの特徴があることを覚えておきましょう。

①血管支配域と合致しない
脳梗塞の場合、基本的には1つの血管がつまることで発症するため、血管支配域と合致した病変になりますが、MELASの場合には血管支配域と関係なく、病変が認められます。

②後方を中心とした病変がある
MELASでは後方の脳部位(側頭、頭頂、後頭葉)に病変をきたすことが多くあります。

③Arterial spin labeling(ASL)撮影法で血流が増加する
MELASの病変部位では血流が増加し、逆に脳梗塞では低下します。ASLは、通常のMRI撮影の際に造影剤不要で灌流画像を評価でき、有用です。

その他、臨床経過や病歴聴取も重要です。多くの症例でけいれん、意識障害などのてんかん発作を合併し、繰り返す頭痛や嘔吐を認めることがあります。糖尿病や心筋症など他疾患の治療歴も聴取しましょう。

MELASにはタウリンが効く!
MELASの脳卒中様発作を抑制する薬が、2019年に承認されました。栄養ドリンク剤にも含まれるタウリンです。MELASの患者さんは、ミトコンドリアtRNALeu(UUR)の変異により、正確なコドン認識に必要なタウリン修飾を受けられません[1]。タウリンを大量投与することにより、ミトコンドリアtRNAのタウリン修飾が改善し、ミトコンドリアにおける蛋白合成が促進されます[2]。結果、ミトコンドリアの機能異常が改善することで、脳卒中様発作が抑制されると考えられています。


MELASを脳卒中と誤診しないために
今回は、MELASの診断の際に注意すべき点と最新の治療について紹介しました。非専門医により脳卒中が疑われ、脳卒中治療病棟に入院した連続354名の患者のうち、25%が脳卒中以外の疾患だったという報告があります[3][4]。

脳卒中様の発作を診たときに、症状、病歴、画像所見が典型的な脳卒中と異なると考えた場合、MELASを鑑別にあげましょう。MELASの患者さんに、間違って抗血栓療法、抗凝固療法をおこなわないことが大切です。

執筆;エスディー@脳神経内科

参考文献
[1]Wobble modification defect in tRNA disturbs codon-anticodon interaction in a mitochondrial disease. EMBO J. 2001; 20:4794-4802.
[2]Taurine supplementation for prevention of stroke-like episodes in MELAS: a multicentre, open-label, 52-week phase III trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2019; 90(5): 529-536.
[3]Når hjerneslagdiagnosen er feil. Tidsskr Nor Laegeforen. 2005; 125: 1655-1657.
[4]MELASによる脳卒中様発作. Brain and Nerve. 2017;69(2): 111-117.