ついに登場!KRAS遺伝子陽性NSCLCの治療薬 ソトラシブ

ついに登場!KRAS遺伝子陽性NSCLCの治療薬 ソトラシブ
肺癌の発生・増殖に関わるドライバー遺伝子は数多く同定されており、分子標的薬での治療が確立した遺伝子も増えてきています。KRAS遺伝子は30年以上前からドライバー遺伝子であることが認識されながらも、有効な治療薬は台頭してきませんでした。2021年にブレイクスルーとなる臨床試験の結果が報告され、ようやく待望の治療薬が登場しました。本記事では、初めてのKRAS阻害薬として保険承認されたソトラシブ(商品名:ルマケラス)について解説します。

KRAS遺伝子治療薬開発の苦難の歴史
KRAS遺伝子は欧米では非小細胞肺癌(NSCLC)患者の2-3割に発現しており、予後不良因子であることが知られています[1]。1980年代にKRAS遺伝子が肺癌の発生・増殖に関連することが報告されて以降、KRAS経路に対する阻害薬の開発が試みられてきました。しかしEGFR遺伝子変異などとは異なり、KRAS蛋白には薬剤が直接結合できる構造を持たないことなどから有効な治療薬の設計は困難を極めます。

2000年代になってようやくKRASに関連する経路の阻害薬の検証がおこなわれるようになりましたが、いずれも実用化には至っていません。また、免疫チェックポイント阻害薬の有効性も報告されましたが[2]予後の改善は示せず、KRASに特異的な治療薬が待ち望まれていました。

2010年代前半になってサブタイプのひとつであるKRAS G12C変異において治療ターゲットになり得る分子構造が発見[3]。数々の苦難を乗り越えて、KRAS遺伝子治療薬開発への期待が高まりました。

初のKRAS阻害薬「ソトラシブ」
ソトラシブはKRAS G12Cに不可逆的に共有結合する構造を持った低分子化合物で、結合することでKRASG 12Cを不活性型に維持し腫瘍の増殖を抑制します。2021年に報告されたCodeBreaK100試験は、進行期KRAS G12C陽性NSCLCを対象に二次治療以降におけるソトラシブの有効性・安全性を検証した第Ⅱ相試験です[4] 。本試験には124症例が組み入れられ、組み入れ症例の観察期間中央値は15.3ヶ月(範囲 1.1〜18.4ヶ月)でした。また本試験では、ソトラシブは1日1回960mgが経口投与されています。

本試験の主な結果は以下の通りです。
・客観的奏効率 37.1%(95%信頼区間 28.6〜46.2%)
・奏効期間中央値 11.1ヶ月(同 6.9ヶ月〜未到達)
・無増悪生存期間中央値 6.8ヶ月(同 5.1〜8.2ヶ月)
・全生存期間中央値 12.5か月(同 10.0ヶ月〜未到達)
本試験の結果を受けて、ソトラシブは2022年1月に本邦で保険承認されました。

ソトラシブの有害事象と使用における留意点
CodeBreaK100試験におけるソトラシブの主な有害事象として、以下が報告されています。
・下痢:31.7%
・悪心:19.0%
・肝酵素上昇:15.1%
・薬剤性肺障害:1.6%

実地臨床での使用に際して留意するべき点は以下の3つです。
①二次治療以降での承認であり初回治療には用いることができないこと
②KRAS遺伝子変異のなかでG12C変異のみ適応であること
③コンパニオン診断薬がtherascreenⓇ KRAS変異検出キットRGQ 「キアゲン」またはGuardant360 CDxがん遺伝子パネルに規定されていること

オンコマインDx Target Test マルチCDxやAmoyDxⓇ肺癌マルチ遺伝子パネルなどの遺伝子パネル検査の普及にともなって、KRAS遺伝子変異陽性と診断される症例は増加しました。KRAS遺伝子変異のサブタイプとしては、G12CのほかG12A、G12D、G12Vなどが知られています。

ソトラシブはG12C変異にのみ適応で、KRAS遺伝子陽性の方すべてに使用できるわけではありません。 LC-SCRUM-Japanにおける遺伝子解析結果では、KRAS遺伝子変異陽性患者のなかでG12Cの割合は約3割と報告されています[5]。

また、遺伝子パネル検査でKRAS G12Cが検出された場合でも上記のコンパニオン診断薬での再確認が必要です。Guardant360 CDxがん遺伝子パネルがおこなえる施設は限られるため、通常の施設では、AmoyDxⓇ肺癌マルチ遺伝子PCRパネルあるいはオンコマインDx Target Test マルチ CDxによりKRAS G12C変異陽性が確認された際は、therascreenⓇ KRAS変異検出キットRGQ 「キアゲン」による再確認が必要となります。

 

KRAS遺伝子陽性NSCLC治療の今後
KRAS遺伝子は頻度が多いドライバー遺伝子でありながら長い間有効な治療薬の開発が進みませんでした。待望のKRAS阻害薬であるソトラシブによって、肺癌治療にまたひとつ有効な選択肢が加わりました。

2022年6月現在、進行期に対する化学療法との併用療法の第Ⅱ相医師主導試験(WJOG14821L試験)や、切除可能病期に対する化学療法との併用療法を術前治療として用いる第Ⅱ相試験(NCT05118854)がおこなわれています。他のKRAS阻害薬の開発も進みつつあり、これまで診断されても予後不良因子に過ぎなかったKRAS遺伝子は今や脚光を浴びるドライバー遺伝子となりました。KRAS阻害薬の先駆けであるソトラシブに今後も注目です。

執筆:tomisuke@呼吸器内科[肺癌]

参考文献
[1]Ernest Nadal et al, KRAS-G12C mutation is associated with poor outcome in surgically resected lung adenocarcinoma, J Thorac Oncol. 2014 Oct;9(10):1513-22.
[2]Arnaud Jeanson et al, Efficacy of Immune Checkpoint Inhibitors in KRAS-Mutant Non-Small Cell Lung Cancer (NSCLC), J Thorac Oncol. 2019 Jun;14(6):1095-1101.
[3]Jude Canon et al, The clinical KRAS(G12C) inhibitor AMG 510 drives anti-tumour immunity, Nature. 2019 Nov;575(7781):217-223.
[4] Ferdinandos Skoulidis et al, Sotorasib for Lung Cancers with KRAS p.G12C Mutation, N Engl J Med. 2021 Jun 24;38(5):2371-381.
[5] Tamiya Y et al, Therapeutic impact of mutation sub- types and concomitant STK11 mutations in KRAS-mutated non-small cell lung cancer:A result of nationwide genomic screening project(LC-SCRUM-Japan), J Clin Oncol. 2020;38(15_suppl):9589.9.