泌尿器科症状に使われる八味地黄丸の効果とは

皆さんは、テレビCMで「八味地黄丸」という文字を目にしたことがあるでしょうか?

深夜のテレビではひざの痛み・目のかすみ・しわ対策など、主に高齢者の方に向けたさまざまな商品が紹介されています。泌尿器科領域も例外ではありません。頻尿や尿漏れに対して八味地黄丸という漢方が多くのテレビ番組で紹介されており、たびたび患者さんから聞かれることも。通販で紹介される商品というと、サプリメントのようなものを想像してしまうのですが、八味地黄丸は保険診療での処方が可能な漢方です。

八味地黄丸とは
八味地黄丸とは一体どのような特徴を持つ漢方なのでしょうか。詳しく解説します。

歴史のある漢方
八味地黄丸は、紀元前200年から紀元後200年の漢代と呼ばれる時代に発行された中国の医学書「金置要略(きんきようりゃく)」にも収載されている、2000年の歴史がある薬です。

腎虚に対する漢方
漢方医学では、肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓の5つの臓器から構成され、腎(気)とはいわゆる腎臓のことではなく、泌尿器系や生殖器系を含む生命エネルギー全体を指します。生命エネルギーである腎気が加齢とともに減少し、基礎代謝など体のバランスが崩れることを東洋医学では「腎虚」と呼びます。腎気を補う薬として最も一般的なのが八味地黄丸です。古来より、加齢に伴うさまざまな症状に用いられてきました。

八味地黄丸の成分
八味地黄丸は、その名の通り八種類の漢方が配合されています。
・地黄(ジオウ)
・山茱萸(サンシュユ)
・山薬(サンヤク)
・沢瀉(タクシャ)
・茯苓(ブクリョウ)
・牡丹皮(ボタンピ)
・桂皮(ケイヒ)
・附子末(ブシマツ)

六味丸という漢方処方に桂皮と附子末を加えたものが八味地黄丸。八味地黄丸に牛膝(ゴシツ)と車前子(シャゼンシ)を加えたものが牛車腎気丸です。

八味地黄丸の効果と泌尿器科領域に対するアプローチ
八味地黄丸の効能・効果は以下の通りです[1]。
・疲労、倦怠感著しく、尿利減少または頻数、口渇し、手足に交互的に冷感と熱感のあるものの次の諸症
・腎炎、糖尿病、陰萎、坐骨神経痛、腰痛、脚気、膀胱カタル、前立腺肥大、高血圧

泌尿器科領域では、前立腺肥大、陰萎(ED)、膀胱炎、過活動膀胱といった加齢によっておこる病気に効果があるとされています。前立腺診療ガイドラインにおいて八味地黄丸は、牛車腎気丸とともに治療の選択肢として紹介されました[2]。


八味地黄丸の効果には一定のエビデンスも
漢方薬は複合的な薬理作用によって効果を表すとされ、成分が特定されていない場合も少なくありません。ただし、八味地黄丸の効果や成分には報告されているものも存在します。

八味地黄丸の泌尿器症状に対する効果は、血管弛緩作用によるものと考えられています。血管弛緩作用の中心は、NOの遊離促進による血管内皮依存性の弛緩作用とCaチャネル阻害作用とβ受容体刺激作用による血管平滑筋弛緩作用です[3]。

またHPLC(高速液体クロマトグラフ)を用いた成分検索によると、八味地黄丸からは7-0-galloyl-D-sedoheptulose、morroniside、loganinといった、山茱萸由来の成分が抽出されました。7-0-galloyl-D-sedoheptuloseは、八味地黄丸の中心の成分です。実験では、2型糖尿病マウスの脂質代謝異常や酸化ストレス状態を是正しています。またmorronisideには、脂質や酸化ストレス関連因子の発現を調節する報告も。loganinにも高血糖の改善や高血糖に伴ったAGE(終末糖化産物)受容体とAGEの産生を抑制し、血管機能を改善させるとの報告があります[4][5][6]。

泌尿器科領域における八味地黄丸の使い方
では、どのような患者さんに八味地黄丸を処方すればいいのでしょうか。泌尿器科領域での使い方について説明します。

西洋薬の使用が難しい場合のよい適応
八味地黄丸は、頻尿や尿勢の低下といった排尿障害に対して使用されます。しかし使用の際には、解決できる原因をまず解消しましょう。前立腺肥大があったり、感染や残尿があったりする場合には西洋薬の処方が第一選択です。また、整形外科疾患や糖尿病など、排尿に関わる神経を障害する原因が隠れていないかどうか確認を。適切な対処をおこなった上でも症状が残っている場合、八味地黄丸の処方をご検討ください。

前立腺肥大に対するα受容体阻害薬は、立ちくらみや逆行性射精といった副作用が現れることがあります。また、過活動膀胱に対する抗コリン薬やβ3作動薬には口渇や便秘といった副作用も。高齢の患者さんでは、便秘などに困っている方も多く、副作用が懸念される場合には漢方がよい適応です。1種類の薬で複数の効果を期待できる点も、ポリファーマシーの方にはメリットといえるでしょう。

4週間程度を程度に効果判定を
漢方薬を使用する場合、効果判定はどの程度がよいのでしょうか。調べた限り、漢方の治療期間を定義する文献は見つけられませんでした。ただし、漢方薬を対象としたランダム化比較試験(RCT)は4週間または8週間を介入期間としているものが多く、2週間では有意差が出なかったとの報告も。副作用がない限り4週程度は内服を継続し、治療効果を判定してもよいのではないでしょうか[7]。
八味地黄丸は泌尿器症状の治療選択肢のひとつ
今回の記事では、八味地黄丸について紹介しました。漢方薬というとあまり馴染みがない方も多いでしょう。しかし西洋薬と組み合わせたり、西洋薬が使いにくい方に用いたりすることでさまざまな効果が期待できます。

執筆:サラリ医マン

【参照】
[1] 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構:ツムラ八味地黄丸エキス顆粒(医療用)

[2] 日本泌尿器科学会:前立腺肥大症ガイドライン P61

[3] 佐藤 廣康.補腎剤による血管弛緩作用の加齢変化と病態依存性.日本薬理学雑誌 147 (3),2016

[4] Yamabe N, et.al. Beneficial effect of Corni Fructus, a constituent of Hachimi-jio-gan, on advanced glycation end-product-mediated renal injury in Streptozotocin-treated diabetic rats. Biol Pharm Bull. 2007 Mar;30(3):520-6.

[5] Park CH, et.al. Effects of morroniside isolated from Corni Fructus on renal lipids and inflammation in type 2 diabetic mice. J Pharm Pharmacol. 2010 Mar;62(3):374-80.

[6] Yamabe N, et.al. Evaluation of loganin, iridoid glycoside from Corni Fructus, on hepatic and renal glucolipotoxicity and inflammation in type 2 diabetic db/db mice. Eur J Pharmacol. 2010 Dec 1;648(1-3):179-87.

[7] 新井一郎.漢方薬ききめのめきき(第16回)腰痛,神経痛など痛みを伴う疾患に対するエビデンス.月間薬事 59(7), 1523-1536, 2017