意外なところから食物アレルギー!まさかの交差反応②
前回、抗がん剤のセツキシマブとマダニ咬傷、肉アレルギー、子持ちカレイのアレルギー(α-Gal syndrome)について「セツキシマブのアナフィラキシー症状の意外な原因 まさかの交差反応①」で報告しました。
今回は、セツキシマブと同じように、食物アレルギーとそのアレルギー原因の意外な組み合わせを4つ紹介します。
①サーファーと納豆アレルギー
食べることができていた納豆に対して、急にアレルギー症状が出てくるサーファーがいます。なぜサーファーに納豆アレルギーが起こったのかわかりますか?
この納豆アレルギーは原料の大豆のアレルギーではなく、納豆の主な粘稠成分であるポリガンマグルタミン酸(PGA)が原因です。2004年にサーファーが、納豆摂取後10-12時間後に遅発性アナフィラキシーを呈した症例が日本から報告されました[1]。
では、なぜ納豆とサーファーに関係あるのかと疑問に思いますよね。
実は、クラゲの刺細胞にPGAが含まれています。海でクラゲに刺されることでPGAを経皮的に感作されアレルギーを獲得することがあります。そして、その後納豆のPGAにアレルギーを呈するのです[2]。
そのため、海でクラゲに刺されるリスクが高いサーファーやダイバーが納豆アレルギーと関連します。PGAは納豆以外にも食品添加物として幅広く利用されているので、PGAのアレルギーを持っている場合は、納豆以外にも注意が必要です[2]。
②ネコとの接触と豚肉アレルギー(pork-cat症候群)
続いては、ペットで飼育されることも多いネコと豚肉アレルギーについてです。
ここでも、ネコと豚肉がどういう理由で関係があるのかと疑問に思いませんか?原因は、ネコ血清アルブミン(Fel d 2)を経気道的に感作されると、ブタ血清アルブミン(Sus s 1)と交差反応が起こり、豚肉摂取時にアレルギー症状が生じるためです。
ネコ血清アルブミン(Fel d 2)のネコアレルギーは、長期の曝露を経て発症するため、青年期から成人で後発すると言われています。ですが、ネコアレルギーの症例で実際にpork-cat症候群を呈するのは1-3%程度のようです[3]。pork-cat症候群になってしまった場合は、ネコとの接触をさけることで、豚肉を安全に摂取できるようになる可能性はあります[4]。
③茶のしずく石鹸と小麦アレルギー
これは、マスメディアでも騒がれたので知っている方も多いのではないかと思います。
「茶のしずく石鹸」に含まれていた加水分解小麦であるグルパール19が洗顔で経皮的に感作され、小麦に対するアレルギーが出てしまったという話です[5]。
もともと従来の小麦アレルギーの約80%は、ω-5グリアジンという小麦成分に対するアレルギーです。茶のしずく石鹸からの小麦アレルギーでは、基本的にω-5グリアジンのアレルギーではありません。その点が従来の小麦アレルギーと異なる点です。
成人の小麦アレルギーの多くは、安静時には小麦の摂取が可能です。摂取後に運動した時にのみアレルギー症状が誘発されます。これが小麦に対する食物依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)です。しかし、茶のしずく石鹸からの小麦アレルギーでは、運動と関連するWDEIAだけでなく、即時型アレルギーを呈します。
もともと小麦を問題なく食べていたのに、経皮的に人工的に生成された小麦成分が感作され、小麦アレルギーを発症するという事例です。しかも約半数がアナフィラキシー症状を呈するようになることは衝撃的でした[5]。
④サバアレルギー ニセモノ・ホンモノ
最後に、意外な原因ではなく、意外に解釈が複雑なアレルギーを紹介します。
もともとサバは食べることができていたのに、ある日サバを食べた時に、蕁麻疹や嘔気といったアレルギー症状が出てしまった。この場合、みなさんはどう考えますか?
この場合、以下の3つの可能性があります[6-7]。
1.サバに対するアレルギー(真のサバアレルギー)
2.ヒスタミン中毒(偽のサバアレルギー)
3.アニサキスに対するアレルギー(偽のサバアレルギー)
アレルギー症状が出ている救急時には、1-3を鑑別するのは難しいと思います。しかしながら、1ならサバを今後は食べないほうがいい、2ならサバは食べられる、3はサバ以外のアニサキスに関係する魚の摂取も控えたほうがいいとなります。
検査としては、血液検査でアニサキスの特異的IgE測定、サバ自体のプリックテスト、必要に応じてはサバの経口負荷試験で確かめます。
アレルギーは奥が深い
今回は、意外な原因で起こるアレルギーと意外に解釈が難しいアレルギーを紹介しました。本当に、どこでいつ食べ物のアレルギーのスイッチが入るかは予測できないものです。
もともと食べることができていたからアレルギーは起こらない、ということはありません。経皮感作からの食物アレルギーを一部紹介しました。この記事が、食物アレルギーの症例を診た時の一助になれば幸いです。
執筆:MajorTY@膠原病内科
[参考文献] [1] Late-onset anaphylaxis to Bacillus natto -fermented soybeans(natto)[2]【知っておきたい! 意外なアレルギー疾患】 ❸納豆アレルギー
[3]【知っておきたい! 意外なアレルギー疾患】 ❹獣肉アレルギー
[4]【外来で出会うアレルギー疾患-Total Allergist入門】知っておくべきアレルギー疾患とその周辺疾患 食肉アレルギー
[5] (旧)茶のしずく石鹸による小麦アレルギー問題からの教訓
[6] 春夏秋冬季節の救急疾患(第9回) 真のサバアレルギーと偽のアレルギー
[7]【知っておきたい! 意外なアレルギー疾患】 ❻アニサキスアレルギー