集中治療医が教える敗血症による播種性血管内凝固症候群(DIC)の一歩進んだ診療法

75歳男性、尿路感染症の診断で入院中。入院時に軽度の意識障害と血圧低下があったが輸液負荷のみで安定し、すぐに抗生剤の投与を開始していた。第2病日、血小板数が50,000 /μLに低下していた。

本症例は敗血症に続発する血小板減少があり、播種性血管内凝固症候群(DIC)が疑わしいですね。今回はこの症例を通じてDIC治療について解説します。

敗血症性DICは過凝固が特徴

DICとは全身の小血管に血栓が多発し、臓器障害を来す重篤な病態です。血栓に対処するために線溶系が活性化される上、血小板、凝固因子が消費され出血傾向が助長されまいます[1]。

DICには過度な凝固に対し、強く線溶系が活性化しているタイプ(線溶亢進型)と、線溶系の活性化はさほどでもないタイプ(線溶抑制型)があります。線溶亢進型DICの原因は腹部大動脈瘤や白血病などです。そして線溶抑制型DICの筆頭は敗血症です[2]。

DICの診断には以下を頻用します[3]。
・血小板数低下
・フィブリノゲン・フィブリン分解産物(FDP)上昇
・フィブリノゲン低下
・プロトロンビン時間延長

トロンビンアンチトロンビン複合体(TAT)上昇は凝固傾向を、プラスミン・プラスミンインヒビター複合体(PIC)上昇は線溶傾向を示し、一歩進んだ評価に役立ちます[2]。またアンチトロンビン-III(AT-III)は消耗性に低下しやすく検査しておくとよいですね[3]。

実際には、敗血症性DICの診断において、急性期DICスコアを使うことが多くあります[4]。

  SIRS 血小板数 (/μL) PT―INR FDP (μg/mL)
1点 3項目以上 8万〜12万 あるいは

24時間以内に30%以上減少

1.2~ 10~25
3点   8万未満 あるいは

24時間以内に50%以上減少

  25~

表. 急性期DICスコア(4点以上でDIC)
SIRS: 全身性炎症反応症候群、PT-INR: プロトロンビン時間国際標準比

 

本患者は凝固検査をしたところ、PT-INR 1.55, FDP 20.5 μg/mL, フィブリノゲン 280 mg/dL (基準値200~400), AT-III 55%, TAT 22.0 μg/L (基準値<4.0), PIC 1.0 μg/mL (基準値<0.8)でした。PICに比べTATの著増があり線溶抑制傾向があります。スコアは5点以上なので、DICと診断できます[5][6]。

では、DICにはどのような治療薬があるのでしょうか?

ガイドラインではトロンボモデュリンとアンチトロンビンが推奨されている

日本版敗血症診療ガイドライン2020では、敗血症性DICへの推奨薬剤は、リコンビナント・トロンボモデュリンとアンチトロンビン製剤の2つです[7]。どちらもDICの過度な凝固に対応するための抗凝固作用があります。

1. リコンビナント・トロンボモデュリン商品名: (リコモジュリン)

トロンボモデュリンの働きは、トロンビンによるプロテインC活性化の促進です。活性化プロテインCが凝固反応を阻害します[2]。

イシヤク内では、以下のメリットを血液内科・腫瘍内科の専門医kotobuki先生が紹介しているのでチェックしておきましょう。

・抗凝固作用と抗炎症作用を合わせもつ
・出血の副作用が少ない
・半減期が約20時間と長いため1日1回投与で済む

2. アンチトロンビン製剤(アコアランなど)

アンチトロンビンは、凝固反応を阻害する生理的物質です。敗血症では活性が低下しやすく、AT-III≦70%でアンチトロンビン製剤投与が適応となります[2]。生理的抗凝固を正常化させるという意味合いがあります。

DIC治療薬には予後改善の証拠はない

日本はDICへの関心が非常に高い国で、DICをひとつの疾患と考え治療する傾向があります[2]。一方、2021年に欧州と米国発の国際ガイドラインが改訂され、日本では推奨されているはずのDIC治療薬は記載されませんでした[8]。欧米において敗血症性DIC治療は感染管理に尽きる、という考え方が根強いのです。

実は、DIC治療薬は大規模ランダム化比較試験(RCT)がおこなわれています。2001年にアンチトロンビン製剤(KyberSept試験)、2019年にトロンボモデュリンのRCT(SCARLET試験)が発表され、どちらも28日死亡率を改善できませんでした[8][9]。

イシヤク内でも、DIC治療薬が国際ガイドラインから削除されたことについては、救急・集中治療の専門医であるバヤシ先生がコメントしています。

しかしRCTでは、サブグループ解析で有効性が示唆されたり、患者選定にケチがついていたりします。DICは議論が尽きない分野なわけで、結果として国内では推奨が残っているのです。

エビデンスを踏まえるとDIC治療薬は、必須薬剤ではないことがわかります。あくまで予後は、感染症治療に依存するでしょう。DICスコアを満たした場合にも治療薬に飛び付かず、まずは根本治療に目を向けましょう。今回の症例であれば、尿路結石や炎症波及による膿瘍形成などドレナージの必要性を検討することも重要です。

個人的には、検査学的に強い凝固反応が遷延する場合にのみDIC治療薬を考慮するものの、基本的に感染治療の徹底で患者さんたちはよくなります。

重症患者を診ると、薬剤を重ねたい欲求に駆られます。しかし重症者ほど多臓器が障害され合併症リスクも高まります。複雑な症例こそシンプルな管理が必要で、集中治療医は引き算の治療を好みます。集中治療の世界的な流れはless is moreです。一歩進んだスマートなDIC診療をおこなっていきましょう。

筆・大江優

 

【引用文献】
[1]一般社団法人 日本血栓止血学会 用語集 敗血症とDIC
[2]日本集中治療医学会教育委員会 . 日本集中治療医学会専門医テキスト 第3版 (p573-7) . 真興交易(株)医書出版部 , 2019年 .
[3]一般社団法人 日本血栓止血学会 用語集 播種性血管内凝固症候群(DIC)
[4]救急領域における急性期DIC診断基準の有用性と今後の課題
[5]一般社団法人 日本血栓止血学会 用語集 トロンビン−アンチトロンビン複合体(TAT)
[6]一般社団法人 日本血栓止血学会 用語集 プラスミンα2プラスミンインヒビター複合体(PIC)・プラスミンα2アンチプラスミン複合体(PAP)
[7]日本版敗血症診療ガイドライン 2020
[8]Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of sepsis and septic shock 2021
[8]High-Dose Antithrombin III in Severe Sepsis: A Randomized Controlled Trial
[9]Effect of a Recombinant Human Soluble Thrombomodulin on Mortality in Patients With Sepsis-Associated Coagulopathy: The SCARLET Randomized Clinical Trial