目指せ、オレンジドクター!認知症診療のコツを知ろう!

司会「本日は、脳神経内科の先生方をお招きし、認知症診療についてご意見を伺いたいと思います。オレンジドクターとは、物忘れや認知症の相談ができる各地域で認定された相談医のことです。早速ですが先生方、自己紹介をお願いします。」

A先生(以下A)「私は基幹病院で脳卒中診療を中心に、大学病院で神経変性疾患や希少疾患を中心に診療してきました。」

B先生(以下B)「今は大学病院に勤務しています。専門は脳卒中です。」

C先生(以下C)「現在は、製薬企業に勤務し、神経疾患に対する薬の開発をしております。週1回は脳神経内科外来をしています。」

認知症診療の問診では、経過を重視し、何をきっかけに受診したかを確かめる

司会「認知症診療における問診のポイントについて教えてください。」

B「Mini Mental State Examination(MMSE)をおこなうとき、大切なことは、答え方の特徴をつかむことです。総合点やどの質問で失点したかの評価も重要ですが、答え方にも認知症ごとの特徴があらわれます。例えば、めんどうくさそうに答えれば前頭側頭型認知症(FTD)、言い繕ったり、途中で同席の家族の方を振り返ったりするとアルツハイマー型認知症(AD)、などと推測しながら診療します。また、年齢を聞くと、若く間違えます。大体、答えた年齢くらいが発症時期かなと思いながら問診をとっています。」

A「経過を注意して聞きます。高齢で顕在化する発達障害は認知症と区別がつきにくいこともありますし、物忘れがあるといってもその後、変化しないこともあります。認知症外来を受診した契機となるエピソードの確認の後、元々何ができていて、それがどの期間でどう変化したかを確認します。」

C「最初に注目するのは、受診のきっかけが自分の意志なのか、家族に促されてきたのか、という点です。認知機能低下を自覚しているのか、していないのかを確認します。あとは、やはり経過です。急性なのか、亜急性なのかなどはクロイツフェルト・ヤコブ病や代謝性疾患を鑑別するために聞きます。家族からの情報が大切なので、一人で来た場合、必ず家族と来るように言います。」

認知症診療で行う検査;treatable dementia(治療できる認知症)を見逃さない!
司会「認知症が疑われた場合、どういう検査をするのでしょうか?」

C「MMSEをした後、時計描画テスト、clinical dementia rating(臨床認知症評価尺度)の検査、frontal assessment battery(前頭葉機能検査)をします。加えて、手でキツネ・ハトの模倣をしてもらったり、最近の出来事を言ってもらったり、日常生活動作を自分でできるかを確認するという流れで診察しています。」

B「症状の経過を聞いたあと、Instrumental Activities of Daily Living(手段的日常生活動作)の確認、幻視・幻覚やパーキンソニズムのチェックをします。採血は一般項目と、甲状腺関連とビタミンB1、B12、葉酸と血管炎や炎症マーカー、アンモニア、そして神経梅毒でしょうか。アポリポ蛋白までは外来では測定しないですね。画像は頭部MRIと脳SPECTを撮って、その所見次第では脳波を追加します。アミロイドPETは保険がきかないのでしないです。」

A「急性ないし亜急性では当日CTかMRIをおこないます。そして、二次性やtreatable dementiaの鑑別のため、B先生と同じく血液検査をします。アミロイドPETは必要な症例にはおこなっていました。臨床経過や検査所見だけだと、病理を推定するのにはどうしても限界があるという認識も大事かと思います。そして、本人や家族にどれだけわかりやすく伝えるかが大切ですね。だからこそ経過が大事だという話にもっていきます。」

C「MRIは高血圧や抗血小板剤を服用している人には、T2*も考慮します。そしてT1冠状断で正常圧水頭症(iNPH)をチェックします。iNPHはtreatable dementiaとして見逃してはいけない疾患です。」

典型的な認知症は少ない!診断にはバイオマーカーが有用!
司会「診断するに際してこういうケースで苦慮した、などの例はありますか?」

A「脳血管性など、複数要素があるパターンでは、病名を付けるのは難しいですね。初診時に、典型的なAD、FTD、びまん性レビー小体病(DLB)とは言えないような症例がたくさんあります。経過を見ていく中で診断が確定していくこともあれば、どれにも分類できないことも多くあります。」

C「ADと思ってフォローしていた人がレビー小体病理でDLBだったなんてことも多いようです。臨床診断と病理診断って、結構違うことが多いのではと思います。」

A: 「臨床診断と病理診断の乖離は脳神経内科ではよくあることですね。だからこそ初診時から、そのように患者家族には説明します。臨床と病理所見の擦り合わせは、薬剤の効果判定や治験の上でも非常に重要な課題ですよね。」

C「機能的画像や髄液・血液バイオマーカーは研究的側面が大きいので、臨床医もそこまで踏み込めないという気がします。アミロイドPETが汎用されるようになったり、血液検査で超早期のADが診断できるようになれば、認知症診療は変わるのかもしれませんが、やはり病理との一致が課題ですよね。」

B「私の研究室では、神経心理検査+MRIなどの画像所見+SPECTを合わせて検査を行っています。ADと判断した症例の髄液Aβ42の相関が大体8割くらいでした。Aβ42単体の測定じゃなく、他のAβとの比較が重要です。Aβ42とアミロイドPETと病理は同じくらいの診断精度らしいので、嗜銀顆粒や神経原線維変化型認知症とADで悩むときはAβ検査を出そうと思います。」

AD治療を大きく変える抗Aβ抗体薬の使用には早期診断が鍵
司会「治療についてはどうお考えでしょうか。」

B「基本的に認知症ガイドラインに基づいて処方します。Aβ42抑制因子は環境(人との関わり合いや趣味、運動)ですが、パーソナルな背景で勧める内容を変えています。相手にピッタリの内容だとMMSEが数点改善することもあって面白いです。今後求められる治療については、抗Aβ抗体だと思いますが、いかがでしょう。」

A「抗Aβ抗体のような治療は、治療薬そのものの進化よりは、早期からの感度・特異度の高い診断が極めて重要で、診療フロー全体の改善が必要だと思います。一方、発病前の予防薬のような扱いになる可能性もあって、保険診療でどこまでできるか不透明です。」

C「血漿でAβの測定が普通にできるようになれば、将来、抗体医薬の出番が増えるかもしれません。しかし、高薬価なので使うのに勇気がいります。A先生のおっしゃる通り、新しい治療ガイドラインがないと現場は使いにくいですね。」

司会「まとめると、
・問診は経過と受診のきっかけをしっかり聞く。
・検査はtreatable dementiaを除外し、画像検査を行う。難渋例にはAβ検査を考慮する。
・治療は抗Aβ抗体に期待、しかし診療フローの見直しが必要。
という事でしょうか。」

司会「以上で『目指せ、オレンジドクター!認知症診療のコツを知ろう!』を閉めさせていただきます。本日は誠にありがとうございました。」

執筆:エスディー@脳神経内科