クリスマスカードを送ることで治験継続率は上昇する?~8つの臨床試験を利用したランダム化比較試験~

「Bah humbug!(ふん、くだらん!)」これは、英国の有名な小説「クリスマス・キャロル」に出てくる主人公スクルージが、お祝いに来た甥に対して発する言葉です。こんな捨て台詞のような言葉から始まる論文[1]を今回は紹介します。今の季節にふさわしい、クリスマスカードの送付と臨床試験(治験)の継続率の関連をみた、一風変わった論文です。最後まで読むと、なぜこんな台詞からこの論文が始まったかがわかります。

治験継続率が臨床試験成功の生命線!

臨床試験において、参加者の継続率の低下は治験成功の可否に関わる大きな問題です。理由は、得られたデータが想定外に少なくなると、結果の信頼性が薄れてしまい、治験が失敗に終わる可能性があるからです。多くの治験をおこなう医薬品開発業務委託機関(CRO)は、継続率を上げるためにさまざまな努力をしています。例えば、治験参加者の次の来院前に、Eメールや手紙を送ったり、電話をかけたりしてリマインドするのです。2017年の英国での調査によると、40%の治験で次の受診を促すために、クリスマスカードを送ったというデータがあります。しかし、実際にその努力は報われているのでしょうか?

クリスマスカードで継続率は変わらない

ヨーク大学のColemanらは、その疑問に答えるために、現在進行中の8つの臨床試験を利用して、ランダム化比較試験(RCT)をおこないました[1]。対照となる治験参加者1469名を、クリスマスカードを送付される群とされない群の2群に無作為に分類。その後の治験フォローアップに来院する率(治験継続率)を主要評価項目として、比較しました。今回、利用した8つの治験には、歯科衛生、妊娠中の喫煙や外科手術に関する研究などさまざまな内容が選ばれています。患者背景は、平均年齢54歳、女性が70%、白人が96%を占めていました。RCTは2019年12月におこなわれ、クリスマスカードの送付後、3か月以内のデータが収集されています。主要評価項目である「クリスマスカードの送付有無による治験継続率」の結果は、カードを受け取った参加者では85.3%(639/749)、受け取らなかった参加者では85.4%(615/720)と有意差は認められませんでした。副次評価項目として「送付後30日以内の継続率」、「カードを受け取ってから来院までの日数」を評価していますが、いずれの結果も有意差はありませんでした。また論文では、カード1枚あたりの経費(スタッフの給料、郵送代など)が約110円もかかり、CO2排出量が140gであることを推計しています。ちなみに、今回のRCTでは、クリスマスカードの送付により、226kgのCO2が排出されたと考えられ、これは230マイル(約370km)の飛行による排出量に匹敵するそうです。著者らは、治験継続率を上げるために、クリスマスカードを送ることを提案する同僚には、次のように反応するのが適切だと述べています。そう、それが冒頭の、「Bah humbug!(ふん、くだらん!)」です。

コロナ下で急速に進化する分散型臨床試験とは?

ちょうど本研究がおこなわれていた2019年12月、中国・武漢からコロナウイルスの大流行が始まりました。コロナウイルスの流行により治験参加者数や来院継続率が低下。全世界の多くの臨床試験は、大きな遅延を受けました。その対策として、製薬会社やCROは、分散型臨床試験(DCT:decentralized clinical trial)を早急に進める方針を発表しています。これまでの臨床試験は、治験実施施設を中心におこなわれ、参加者は施設に来院する必要がありました。しかしDCTでは、参加者中心に治験がおこなわれます。例えば、オンライン診療を利用したり、ウェアラブルデバイスを使ってデータを集めたり、電子媒体の同意書を使用することで、来院の手間を省くのです。さらに、治験参加希望者をオンラインで募集ができ、地域の病院や訪問看護を利用することで、全国の患者様が治験に参加することも可能になります。DCTにより、今後の治験継続率は上昇するでしょう。

本当にクリスマスカードはいらないのか?

今回は、クリスマスカードの送付は治験継続率に影響しないという論文を紹介しました。DCTをはじめとした臨床試験の改革により、ますますクリスマスカードなどのアナログ的な方法がなくなる可能性があります。しかし、本当にそうなるのでしょうか?最後に、大真面目な論文の中で、心に残った一節をご紹介します。「それぞれの試験チームは、クリスマスソング(マライアキャリーがお気に入り)を聴きながら、ミンスパイ(クリスマスに食べる伝統的なお菓子)を食べ、陽気な時間を過ごしながら、クリスマスカードを封筒に入れた」エビデンスはなくても、サイエンスでは測れない大切なものがあるのかもしれません。

文責:エスディー@脳神経内科

 

【参考文献】
[1] Bah humbug! Association between sending Christmas cards to trial participants and trial retention: randomised study within a trial conducted simultaneously across eight host trials.