抗菌縫合糸のバイクリルプラスやPDSプラスって効果はあるの?

抗菌縫合糸のバイクリルプラスやPDSプラスって効果はあるの?
近年、PDS®プラスやバイクリル®プラスなどの抗菌作用をもつ縫合糸が登場しました。使用している先生も多いと思いますが、実際に効果はあるのでしょうか?
今回は、抗菌縫合糸のメリットやデメリット、最近の知見も含めて解説します。

トリクロサンは縫合糸表面で細菌のコロニー形成を阻害する
縫合糸は傷に接しているため、糸への菌の付着が手術部位感染(surgical site infections、以下SSI)の原因のひとつに考えられています。そこで、糸での菌の繁殖を防ぐために、抗菌作用をもつトリクロサンでコーティングされた縫合糸(以下抗菌縫合糸)が開発されました[1,2]。

トリクロサンとは、歯磨き粉や石けんなどでも使用されている抗菌剤です。高濃度トリクロサンは細菌の細胞質構造や細胞膜を攻撃して殺菌性に働き、低濃度トリクロサンは脂肪酸合成を阻害して静菌性に働きます。トリクロサンコーティングした糸の研究では、細菌数や創部感染の減少が報告されています[1]。

トリクロサンがコロニー形成を阻害する細菌は、以下のとおりです[3]。
・黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
・表皮ブドウ球菌、メチシリン耐性表皮ブドウ球菌
・大腸菌
・肺炎桿菌

抗菌縫合糸でSSIが予防できれば医療費を削減できる
SSIは外科系院内感染症の主な原因です。SSIは、医療費の増大や入院期間延長が起こる要因となります。抗菌縫合糸のメリットは、非抗菌縫合糸よりSSI発生率を下げる可能性があることです。SSIを予防できれば、SSIの治療費がかからず、平均在院日数の短縮など、医療コストを削減できます。一方、デメリットは、抗菌縫合糸は非抗菌縫合糸より高価なことです。

抗菌縫合糸を導入した場合、どのくらいの医療費が削減できるでしょうか?中村らの大腸手術での報告を見てみましょう。
・SSIにかかる追加医療費(中央値):1例あたり184,800円
・抗菌縫合糸の年間費用:1例あたりの糸の差額864円×年間200例=172,800円
つまり、SSI治療費184,800円>抗菌縫合糸の年間費用172,800円より、1年間で1例=0.5%(1/200例)以上のSSIを防げれば、抗菌縫合糸の費用は相殺され、医療費削減効果が得られます[2]。

安全性はというと、トリクロサンの接触アレルギーや創傷治癒へ悪影響の可能性を指摘した報告はありますが、ガイドライン内の研究では関連付けられた有害事象はありませんでした[1]。

抗菌縫合糸の使用は、現時点では推奨と非推奨が混在
最近のガイドラインでは、SSI予防のためのトリクロサンコーティング縫合糸の使用に関して、以下のように記載され、強くはありませんが推奨されています。
・英国のNational Institute for Health and Care Excellence(NICE)の2019年ガイドライン:使用を考慮する[4] ・WHOの2018年ガイドライン:使用を提案する[5]

次に、2022年の論文を確認しましょう。
・National Institute of Health Research Unit on Global Surgeryによると、ガイドラインによる推奨は、バイアスのリスクが高い研究や質の低い小規模RCTのメタアナリシスに基づくものであった。その後の大規模RCTなど、質の高いRCTでメタアナリシスをおこなった結果、トリクロサンコーティング縫合糸と非抗菌縫合糸の間にSSI発生率の有意差は認められなかったと報告[6]。
・Miyoshiらは、国内多施設共同研究をおこない、待機的大腸癌手術のSSI発生率はトリクロサンコーティング縫合糸では4.2%、非抗菌縫合糸では6.74%(P=0.028)で、抗菌縫合糸はSSIを低下させたと報告[7]。

抗菌縫合糸に関しては、高いエビデンスの報告が少なく、推奨と非推奨が混在している状況です。現時点では、さらなる質の高いデータの蓄積と検証を待つのがよさそうですね。

SSIを減らすには、モノフィラメントの吸収糸がよい
非抗菌縫合糸の「非吸収糸」と「吸収糸」では、どちらの方が術後SSIは少ないでしょうか?

「骨・関節術後感染予防ガイドライン 2015」では「創閉鎖において、非吸収糸に比べて吸収糸を使用することにより術後SSIの発生減少が期待できる」(grade B:おこなうよう推奨)としています[8]。

一般的に、抜糸せずに体内に残る場合は、吸収糸を選択しますよね[9]。やはり、異物として残存する非吸収糸より、異物として残らない吸収糸の方が感染は少ないようです。

では、非抗菌縫合糸の「1本糸のモノフィラメント」と「複数の糸のマルチフィラメント」では、どちらの方がSSIは少ないでしょうか?

一般的に、マルチフィラメントは糸の間に毛細管現象によって細菌が侵入するため、感染源になる可能性があります。一方で、モノフィラメントは毛細管現象がなく、細菌が侵入しないため、感染しにくいです[9]。

「骨・関節術後感染予防ガイドライン」でも吸収糸の研究で、モノフィラメント吸収糸の菌量が最も少なかったと報告されています。また、腹部手術のRCTにおいて、モノフィラメント吸収糸より、マルチフィラメント吸収糸のSSI発生率が優位に高率でした。しかし、これに関しては、大規模臨床試験が少なく、今後の検討課題とされています[8]。

縫合糸とSSIの有効性に関しては、さらなる研究の蓄積が必要
この記事では、縫合糸とSSIの関係に関して解説しました。日常的に使用する縫合糸ですが、SSIの有効性を検証するには質の高いRCTが必要であり、もうしばらく時間がかかりそうです。早くエビデンスが集積されることが期待されますね。

参考文献
[1] 木幡一博. 特集 糸と結び-整形外科的縫合マニュアル- SSI(surgical site infection)と縫合. MB Orthop. 2021, vol.34, no.9.
[2] 中村 透. 特集 創閉鎖の進歩 大腸手術におけるトリクロサンコーティング縫合糸の有用性の検討-前向き無作為比較試験-. 日本外科感染症学会雑誌. 2015, vol.12, no.3.
[3] PDS®プラス添付文書
[4] National Institute for Health and Care Excellence. Surgical site infections: prevention and treatment. 2019.
[5] World Health Organization. Global guidelines for the prevention of surgical site infection, 2nd edition. 2018.
[6] National Institute of Health Research Unit on Global Surgery. Alcoholic chlorhexidine skin preparation or triclosan-coated sutures to reduce surgical site infection: a systematic review and meta-analysis of high-quality randomised controlled trials. 2022, vol.22, no.8.
[7] Norikatsu Miyoshi et al. Effectiveness of Triclosan-Coated Sutures Compared with Uncoated Sutures in Preventing Surgical Site Infection after Abdominal Wall Closure in Open/Laparoscopic Colorectal Surgery. J Am Coll Surg. 2022, Vol.234, no.3.
[8] 日本整形外科学会 日本骨・関節感染症学会. 骨・関節術後感染予防ガイドライン2015.
[9] 名波竜規. 特集 食道癌・胃癌切除後の再建法を見直す-達人の選択 基本事項から再建法を見直す 縫合糸の特性. 臨外. 2012, vol.67, no.12.

執筆 :shun@形成外科