救急医直伝!アナフィラキシー攻略法。ワクチン接種後、具合が急に悪くなった人がいたらどうする?

あなたはワクチン接種の仕事をしています。接種後に経過観察を受けている人の中から「息苦しい」という声があがりました。様子を見にいくと、20代の男性がぐったりしています。
第一印象では、非常に具合が悪そうです。あなたはどうしたらよいのでしょうか?

重篤なアナフィラキシーにも対応できるように、一緒に学んでいきましょう。まずはアナフィラキシーを認識するところから診療は始まります。

アナフィラキシーかも?と思ったらまず脱衣
アナフィラキシーとは、4つの臓器に影響する重篤なアレルギー反応です[1]。

代表的な症状
1 皮膚・粘膜 全身の発疹、掻痒、紅潮、浮腫(口唇、舌、口蓋垂)
2 呼吸器 呼吸困難、気道狭窄、喘鳴、低酸素血症
3 循環器 血圧低下、意識障害
4 消化器 持続する腹部疝痛、嘔吐

以下の項目のいずれかが、急速(数分〜数時間以内)に発現する場合にアナフィラキシーと診断します[1]。

・皮膚・粘膜症状、かつ呼吸器症状あるいは循環器症状のどちらか1つを伴う
・4つの臓器症状(皮膚・粘膜、呼吸器、循環器、消化器)のうち、2つ以上がある
・アレルゲンへの暴露後の血圧低下

アナフィラキシーを速やかに認識するために筆者が実践している診療法は、臥位にしながら手指に触れ、その次に脱衣させるというものです。血圧低下の可能性を考えて、臥位にして頭を低くします。手指に触れる理由は、末梢冷感と湿潤を確かめながら、橈骨動脈を触知するためです。同時に複数のショック徴候があるかを診察します。

また、皮膚症状と努力呼吸の確認のために脱衣させましょう。短時間でアナフィラキシーかどうかの判定と、緊急度の評価ができます。血圧やSpO2の測定が終わる頃には、初期評価ができていることが理想です。

治療のゴールドスタンダードはアドレナリン筋注
アナフィラキシー治療の要は、アドレナリンです。アドレナリンは強い薬という印象があり、投与を戸惑う方もいるのではないでしょうか。使い方をみていきましょう。
適応は重症のアナフィラキシー患者
症状が重篤な場合は、アドレナリンのよい適応です。具体的な症状を表に示します[1]。

重篤な症状の例
皮膚・粘膜 全身の発疹、強い掻痒、顔面の腫脹、咽頭痛
呼吸器 持続的な強い咳き込み、犬吠様咳嗽、喘鳴、呼吸困難、チアノーゼ、呼吸停止、SpO2≦92%、締め付けられるような苦しさ
循環器 不整脈、血圧低下、心停止
消化器 自制外の強い腹痛が持続、繰り返す嘔吐
全身症状 ぐったり、不穏、失禁、意識消失

過去に重篤なアナフィラキシーになったことがある、今は重篤でなくても進行が急速であるという場合にもアドレナリン投与を考慮します[1]。

投与方法のミスに要注意
アナフィラキシーに対してはアドレナリン0.3mgを、大腿部の外側に筋肉注射します。アナフィラキシー診療に不慣れだと、静脈注射をしたり、用量を1mgにしたりする事例があり注意が必要です。また筋肉注射の部位は、大腿が標準的であり、肩や臀部ではありません。アドレナリンの血中濃度は40分で半減し、効果の持続時間は短いことが特徴です[1]。症状が長引く場合は繰り返し投与をおこないましょう。

ステロイドに即効性はない
ステロイドは、主に二相性アナフィラキシーの予防のために投与します。二相性アナフィラキシーとは、時間が経ってからアナフィラキシー症状が再燃することです。例えば、メチルプレドニゾロン(ソル・メドロール®︎)1~2mg/kgを予防投与します[2]。

しかし、ステロイドによる二相性反応の予防効果について実は明らかになっていません[2]。筆者はアナフィラキシーに対するステロイド投与はルーチンにせず、初回の症状が重篤な場合に検討します。ステロイドの作用発現には数時間かかるため、全身状態が落ち着いてからの投与でも遅くありません。

アナフィラキシーこぼれ話
ここからは、アナフィラキシーに関する応用的な話題をみていきましょう。

β遮断薬を内服している患者にはグルカゴン
β遮断薬は、アドレナリンの作用を減弱させます。β遮断薬の内服者が、アドレナリン抵抗性アナフィラキシーを発症した場合には、グルカゴンの投与を検討します。グルカゴンは、β受容体を介さない機序であるため有効です。成人の場合、1~5mgを緩徐に静脈投与します[3]。

難治例へのメチレンブルー投与の試み
メチレンブルーは血管収縮作用があり、心臓手術に関連した血管拡張に対し投与されることがあります。同時に、アナフィラキシーの治療薬とする報告もあります[3][4]。メチレンブルーは、難治性アナフィラキシーへの新たな試みです。まだ一般的に利用されるほどのエビデンスは蓄積されていませんが、治療の手札が増えることが期待できます。

アレルギー性の急性冠症候群
アナフィラキシーに急性冠症候群が合併することがあります。アレルギー反応で発生するヒスタミンは、冠攣縮のリスク因子です。ギリシャの医師であるKounisは、アレルギーによる冠攣縮の概念を提唱しました。現在はアレルギーに伴う急性冠症候群をKounis症候群と呼びます [4]。アナフィラキシーによる心電図変化は筆者も経験したことがあり、心電図を頻繁に測定しています。

身体診察とアドレナリンでアナフィラキシーを攻略しよう
今回はアナフィラキシーの標準的な知識に加えて、応用的な話題にも触れました。アナフィラキシーの適切な診療には、迅速にアナフィラキシーを認識すること、アドレナリン筋肉注射を躊躇しないことが大切です。アナフィラキシーかも?と思ったら、積極的に身体診察をおこない、アドレナリン投与が必要な所見をみつけましょう。

執筆:大江優

参考文献
[1] 日本アレルギー学会 アナフィラキシーガイドライン
[2] Phillip LL.Biphasic and protracted anaphylaxis.In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA.(Accessed on Febrary 04, 2021.)
[3] Campbell RL.Anaphylaxis: Emergency treatment.In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA.(Accessed on Febrary 04, 2021.)
[4] Da Silva PS, Furtado P. Methylene Blue to Treat Refractory Latex-Induced Anaphylactic Shock: A Case Report. A&A practice. 2018 Feb;10:57-60.
[4] Pinto DS.Vasospastic angina.In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA.(Accessed on Febrary 04, 2021.)