心筋梗塞の二次予防:LDL-Cの管理目標達成のカギはPCSK9阻害薬

心筋梗塞の二次予防において低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)の管理目標値はハイリスク群で70mg/L未満とガイドラインで定められています[1]。しかし、現行の治療薬では、達成率は決して高くありません。この記事では循環器内科専門医が、問題解決のカギを握る、ヒトプロタンパク質転換酵素であるサブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害薬について解説します。

PCSK9阻害薬とは?強力なLDL-C低下作用を有する最終兵器!
PCSK9は、タンパク質を分解するプロテアーゼです。そしてPCSK9阻害薬は、LDL-Cを低下させる働きがあります。ここでは、PCSK9阻害薬について詳しくみていきましょう。

PCSK9阻害薬の作用機序を知ろう
PCSK9は、肝表面に存在しているLDL受容体と結合し、できた結合体は肝細胞内に取り込まれます。結果、LDL受容体の数が減少し、LDL-Cが肝臓に取り込まれなくなるため、LDL-Cの血中濃度が上昇するのです。

PCSK9阻害薬は、PCSK9の働きを阻害することによりLDL受容体が肝細胞内に取り込まれず、LDL-Cが低下します。家族性高コレステロール血症の患者は、PCSK9の機能獲得変異により、LDL受容体が増加。血中でPCSK9が検出できない人では、LDL-Cの値が20mg/dLと極めて低値となります。

心筋梗塞の二次予防のLDL-Cの管理目標値を確認しよう
心筋梗塞の二次予防において、LDL-Cの管理目標値はハイリスク群で70mg/L未満とガイドラインで定められています[1]。ハイリスク群とは糖尿病に下記のいずれか1つ以上の疾患を合併している症例です。
・非心原性脳梗塞
・末梢動脈疾患
・慢性腎不全
・メタボリックシンドローム
・喫煙

米国では使用が増えてきているものの、まだ使用量頻度は少ない
米国では、2015年よりPCSK9阻害薬の処方が可能です。2015年〜2019年にかけて、PCSK9阻害薬の適応のある症例に処方された割合は0.05%から2.5%へと増加しました。しかし、まだまだ一部の症例にしか処方されていないのが現状です[2]。日本での全国規模の使用実態はまだ明らかではありません。

スタチンへの上乗せ効果は?PCSK9阻害薬の血管イベント減少率
PCSK9阻害薬は、どの程度LDL-Cを低下させて、結果どれだけ血管イベントが減少するのでしょうか?代表的な臨床試験のデータをみていきましょう。

PCSK9阻害薬はこれだけLDL-Cと血管イベントを低下させる!
動脈硬化性心疾患の既往があり、スタチン製剤をすでに内服している25,000人以上の患者が参加したRCTからのデータを紹介します。参加者は、エボロクマブ(商品名:レパーサ)とプラセボに振り分けられました[3]。主な結果は以下です。
・レパーサ群ではLDL-Cの中央値が92から30mg/dLへと大幅に低下
・2.2年間のフォローアップ中に、血管イベントの相対リスク減少率は15%
・LDL-Cの中央値が74mg/dLで、あと一歩目標値が達成できなかった群でもさらに血管イベントのリスクを減少
これらの結果より、「LDL-Cは低ければ、低いほどよい」ということになります。

LDL-Cはどこまで下げても安全か?
LDL-Cが高いと動脈硬化性疾患になるリスクが上昇します。では逆に、LDL-Cがすごく低値になるのは問題ないのでしょうか。

実は、値が低すぎると神経機能障害がおきるのではとの懸念があります。この臨床試験では約10%の患者でLDL-C<20mg/dLと著明に低下しましたが、神経機能障害は認められませんでした[4]。ただし臨床試験の期間内に限った場合なので、長期的な安全性の評価が必要です。
PCSK9阻害薬導入は薬価と注射への理解がカギ
いいことずくめのようなPCSK9阻害薬ですが、残念ながら今のところ広く使われているとはいえません。価格が高いことと、注射を打たなければならないということが大きな要因です。

いい薬、しかし薬価が高い
日本ではレパーサ140mgを24,565円で2週間に1回、または420mgを1月に1回、皮下注射します。米国では、発売当初のコストは年間14,000U.S.ドルでした。しかし費用対効果が見合わないとの指摘から、PCSK9阻害薬は普及率が低かったのです[5]。その後、6,000U.S.ドル以上の値引きがおこなわれ、費用対効果が適正水準となりました。しかしまだ高額であるため、気軽に処方できる薬ではありません[6]。

注射なので患者の抵抗感が強い
1ヶ月の間に1〜2回とはいえ、注射製剤を打つことに多くの患者さんは難色を示します。私はインスリン患者さんを引き合いに出して「毎日であるインスリンと比べれば、月1〜2回ですので頑張りましょう」と説得しています。ただし納得してくれる患者さんはあまり多くありません。

経口のPCSK9阻害薬を現在開発中
注射製剤という心理的負担を乗り越えるため、現在経口のPCSK9阻害薬の開発が進んでいます。経口剤が完成すれば、注射のハードルは超えられるため、もっと普及が期待できます[7]。
心筋梗塞後でLDL-Cが治療目標に達しない患者にPCSK9阻害薬を提案できるようになろう!
この記事では、PCSK9阻害薬に関して解説しました。PCSK9阻害薬が動脈硬化性疾患のハイリスク患者においてよい薬であることは事実です。PCSK9阻害薬をよく理解して、適切な患者さんに「こんな選択肢がありますけれど、どうでしょうか?」と提案できるようになりましょう。

執筆:きりん@循環器内科医

[1] 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017年版. 日本動脈硬化学会 2017
[2] Dayoub EJ, Eberly LA, Nathan AS, Khatana SAM, Adusumalli S, Navar AM, Giri J, Groeneveld PW. Adoption of PCSK9 Inhibitors Among Patients With Atherosclerotic Disease. J Am Heart Assoc. 2021;10:e019331.
[3] Sabatine MS, Giugliano RP, Keech AC, Honarpour N, Wiviott SD, Murphy SA, Kuder JF, Wang H, Liu T, Wasserman SM, Sever PS, Pedersen TR; FOURIER Steering Committee and Investigators. Evolocumab and Clinical Outcomes in Patients with Cardiovascular Disease. N Engl J Med. 2017;376:1713-1722.
[4] Giugliano RP, Pedersen TR, Park JG, De Ferrari GM, Gaciong ZA, Ceska R, Toth K, Gouni-Berthold I, Lopez-Miranda J, Schiele F, Mach F, Ott BR, Kanevsky E, Pineda AL, Somaratne R, Wasserman SM, Keech AC, Sever PS, Sabatine MS; FOURIER Investigators. Clinical efficacy and safety of achieving very low LDL-cholesterol concentrations with the PCSK9 inhibitor evolocumab: a prespecified secondary analysis of the FOURIER trial. Lancet. 2017;390:1962-1971.
[5] Kazi DS, Moran AE, Coxson PG, Penko J, Ollendorf DA, Pearson SD, Tice JA, Guzman D, Bibbins-Domingo K. Cost-effectiveness of PCSK9 Inhibitor Therapy in Patients With Heterozygous Familial Hypercholesterolemia or Atherosclerotic Cardiovascular Disease. JAMA. 2016;316:743-753.
[6] Dhruva SS, Ross JS, Desai NR. Alirocumab's Price Reduction. Circulation. 2018 Oct 9;138(15):1502-1504.
[7]日経メディカル|初の経口PCSK9阻害薬、第1相試験の結果は良好 https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/202111/572707.html