シルデナフィルは、当初、狭心症の治療薬として開発された!?

日常的に使っている薬剤が、意外なところや経緯で見つかったものであることを知っていますか。「意外なところで発見された薬剤を紹介 その②」では、イグラチモド(ケアラム®️)とオーラノフィン(リドーラ®️)を紹介しました。今回、紹介するのは、PDE5阻害薬であるシルデナフィル(バイアグラ®️、レバチオ®️)です。

シルデナフィルは勃起障害、肺動脈性肺高血圧の治療薬
イシヤクにも記載されている通り、シルデナフィルは、バイアグラ®️の商品名で勃起不全の治療薬です。また、レバチオ®️の商品名で肺動脈性肺高血圧症の治療薬としても使用されています。

 

シルデナフィルは当初、冠動脈血流改善薬として開発された
シルデナフィルは当初、狭心症の治療薬として開発されました。PDE5が血小板や血管平滑筋に存在していることは、すでに判明していました。開発陣はPDE5を阻害することで、冠動脈の血管抵抗を減少させ、血小板凝集を抑制できるだろうと仮説をたてます。そして、1989年に選択的PDE5阻害薬としてシルデナフィルが同定されました[1]。

PDE(ホスホジエステラーゼ)とは
PDEとは、cAMPやcGMPを分解する酵素です。PDE1からPDE11まで11種類に分類されています。PDEを阻害することで、有利な薬理作用を呈する薬剤を下の表に示します[2]。​​

PDE阻害作用 薬剤
非選択性 アミノフィリン(ネオフィリン®️)
PDE3 シロスタゾール(プレタール®️)

ミルリノン(ミルリーラ®️)

PDE4 アプレミラスト(オテズラ®️)
PDE5 シルデナフィル(バイアグラ®️、レバチオ®️)

 

臨床試験で勃起症の副作用報告
1991から1992年にシルデナフィルは、健常人を対象に臨床試験がおこなわれました。結果として、シルデナフィルによる心臓血管系への影響は小さいことが判明。1993年に狭心症の症例で再度、シルデナフィルの臨床試験をおこないましたが、同様の結果となりました。

別の試験である臨床試験Aでは、狭心症をもつ症例でおこなわれました。75mgを1日3回処方された8人中5人の男性に、また50mgを1日3回処方された9人中3人の男性に、勃起症の副作用報告が上がります。報告から、シルデナフィルは狭心症の治療には有効ではないけれども、勃起不全の治療薬の候補になるのではと考えられました[1]。
海綿体血管内皮にはないとされていたPDE5が発見される
勃起症の副作用が出たとき、なぜ起きるのか開発陣営はわかりませんでした。というのも、陰茎海綿体にはPDEのPDE1とPDE3が発現し、PDE5は発現が少ないとされていたからです。

開発陣営は研究を重ね、海綿体と海綿体の血管で発現しているPDEはPDE5であることを突き止めました。そして、1993年末に英国で勃起不全の二重盲検比較試験が開始されます。1998年にFDA(3月)とEMA(9月)でシルデナフィルは勃起不全治療薬バイアグラ®️として認可。日本では1998年12月に認可されました[1]。

肺動脈の血管内皮にもPDE5が高発現していた
勃起不全症の治療薬として登場したシルデナフィルですが、肺動脈性肺高血圧症の治療薬として白羽の矢がたちます。人での肺動脈血管にPDE5が発現していることが発表されたのです[3]。

肺動脈性肺高血圧症の治療は当時、肺移植かプロスタノイド持続投与のみ
当時、肺動脈性肺高血圧症の治療は、肺移植か1995年に認可されたエポプロステノール(フローラン®️、持続投与製剤)だけでした[4]。そして2000年に、経口薬であるシルデナフィルが肺動脈性肺高血圧に有効であるとの症例報告が発表されます[5]。肺の血管抵抗を下げるが、全身の血管抵抗に影響が少ないシルデナフィルは理想的でした。

臨床試験を経て、2005年にFDAとEMAで肺動脈性肺高血圧症の適応を取得。肺動脈性肺高血圧症の新たな機序の経口治療薬として登場しました。日本でも2008年からレバチオ®️として肺動脈性肺高血圧症に対して適応を取得しています。
シルデナフィルの現在の役割
肺動脈性肺高血圧のターゲットには以下の3系統の薬剤治療があります[6]。

①PDE5阻害薬(シルデナフィルなど)
②エンドセリン受容体拮抗薬(ボセンタンなど)
③プロスタグランジン系(エポプロステノール、セレキシパグなど)

PDE5阻害薬のひとつとして、シルデナフィルは使用されています。

薬剤の運命は最後までわからない
シルデナフィルは、狭心症治療薬として開発されたものの効果はイマイチでした。しかし、副作用報告から別の適応症が見いだされ、現在は勃起不全薬、肺動脈性肺高血圧症の治療薬として使われています。今は使われない薬剤も、あっと驚く効能が隠れているかもしれません。人の運命もそうですが、薬剤の運命もわからないものですね。

執筆:MajorTY@膠原病内科

[参考文献] [1] The Serendipitous Story of Sildenafil: An Unexpected Oral Therapy for Erectile Dysfunction.
[2] PDEIII阻害薬のもつ可能性.
[3] Identification of PDE isozymes in human pulmonary artery and effect of selective PDE inhibitors.
[4]【肺高血圧症治療の最前線】肺高血圧症治療戦略の歴史.
[5] Sildenafil in Primary Pulmonary Hypertension.
[6] 肺高血圧症-診断・治療の最新動向 肺高血圧症の歴史的変遷に伴うガイドラインの進化.