【研修医Rシリーズ】末梢性めまい患者を日常診療ではどうマネージメントしていく?

【研修医Rシリーズ】末梢性めまい患者を日常診療ではどうマネージメントしていく?

研修医R(以下R):T先生、おはようございます。
指導医T(以下T):おはようRさん。今日は外来見学?
R:はい、よろしくお願いします。
T:そういえば朝から1件、めまい患者さんの救急車を受けているんだよ。
R:めまいって結構難しくて……、まだ勉強中です。
T:せっかくだからめまい患者さんへの投薬についてミニ講義しようか。
R:ぜひおねがいします!
急性期は平衡機能障害による嘔気に有効な薬剤を選択する
T:救急外来でめまい患者さんに、まず投与する薬剤といえば何を思い浮かべる?
R:えーと、メイロン®(一般名:重炭酸ナトリウム)と制吐剤のプリンペラン®(一般名:メトクロプラミド)はどうでしょう?
T:なるほどね。メイロン®がどうやってめまいに効くのか知ってる?
R:いや、知らないです……
T:内耳が迷路とも呼ばれることが名前の由来となっているメイロン®だけど、めまいに対して適応があるのは日本だけなんだ。戦時中、日本軍が重炭酸ナトリウムを点滴すると船酔いや飛行機酔いが軽減したという研究結果を出したんだ。この結果を根拠として、めまいに対してメイロン®を処方するのが通例になっているんだけど、いわゆるエビデンスはないんだよ[1]。あと、プリンペラン®はドーパミン作動薬だから、消化管からの嘔気には有効だけど、前庭障害にはあまり効果がないんだ。
R:そうなんですか!では、何を出せばよいのでしょう?
T:めまいの急性期に対しては、ヒスタミンH1受容体拮抗薬が有効なんだ。エビデンスがあるのはドラマミン®(一般名:ジメンヒドリナート)だね[2]。同効の薬剤でアタラックスP®(一般名:ヒドロキシジン)やトラベルミン®(一般名:ジフェンヒドラミン・ジプロフィリン)はめまいの急性期によく用いられているよ。ただし、中枢に移行しやすい抗ヒスタミン薬だから、副作用としての眠気と抗コリン作用に注意する必要があるよ。
R:アタラックスP®は鎮静作用しか知りませんでした。
T:他にも抗不安薬であるデパス®(一般名:エチゾラム)が、急性期めまい症状を改善させたというRCTの報告もある[3]。めまい発作では患者さんがパニックのようになってしまうので、抗不安薬が有効というのは納得できるね。

亜急性期は前庭代償の促進を促す内服薬を
R:先生が外来でよく処方していらっしゃるセファドール®(一般名:ジフェニドール)、メリスロン®(一般名:ベタヒスチンメシル)、アデホス®(一般名:アデノシン三リン酸)といった内服薬は、どのように考えたらよいのでしょうか?
T:Rさんが挙げてくれたような内服薬は、主に前庭代償によって症状が改善していくまでの亜急性期に処方するんだ。いずれの薬剤も内耳の末梢循環改善および抗ヒスタミン作用によって症状の改善を促すとされているよ。
R:内耳の末梢循環改善、という作用機序にはちょっと疑問があるのですが、先生はどうお考えですか?
T:おっと厳しい質問だね。確かに私も、薬剤を内服することで内耳にだけ末梢循環が改善する、という機序には少し疑問がある。ただ、自覚症状を改善したという報告がいくつかあるんだ。セファドール®は延髄の嘔吐中枢を抑制し、急性期の嘔吐に効果があるとされ、RCTでも投与によって自覚症状が軽減したとされている[4,5]。また、メリスロン®もRCTで客観的な平衡機能の改善は示さなかったものの、めまい症状を改善させたようだ[6]。さらに、メリスロン®は長期内服で前庭代償を促進し、めまい症状を改善させる可能性があるとされているよ。アデホス®も同様にRCTでめまい症状を改善させたと報告されているね[7]。
R:たくさん処方されている薬剤だけあって、効果があるんですね。
T:セファドール®は、嘔吐中枢抑制効果を期待して、急性期から数週間を目安に処方するよ。メリスロン®も急性期近くから併用して処方するね。ただ、前庭代償には時間がかかるので、メリスロン®は数ヶ月から1年近く継続処方する場合もあるんだ。

慢性期は心因性要素に注目する
T:半年以上経過しても症状が続くような慢性期のめまいは、心因性の要素が強いと考えられているよ。
R:心因性ってことは不安症状が影響するということでしょうか?
T:そうだね。めまいに対する恐怖感や予期不安から抑うつ状態になり、引きこもり状態になってしまうこともある。こうなると前庭代償が遅れ、調節障害から浮動性めまいを生じることがあるんだ。
R:このような患者さんには、どのような薬剤を選ぶのでしょう?
T:使いやすいのは抗不安薬だね。私は比較的、依存性を形成しにくいと考えられる、長時間作用型のメイラックス®(一般名:ロフラゼプ酸エチル)を選ぶことが多いよ。さらに不安症状が強い場合や抑うつ状態の場合は、ジェイゾロフト®(一般名:セルトラリン)などのSSRIを処方することもある。
R:SSRIが必要なこともあるんですね。

漢方薬は補助的に投与する
R:めまいに漢方薬が効く、というのもよく聞くのですが、実際はどうなんですか?
T:漢方薬でよく処方するのは苓桂朮甘湯と五苓散かな。苓桂朮甘湯は早く効いて、内服開始1日後には効果がでると言われているよ。吐き気にも効果があり、車酔いをしやすい患者さんに対しての酔い止めとして処方することもあるね。五苓散も効果発現は早くて、体がむくみやすいような水毒と言われるタイプの患者さんに効果があるみたいだね。特に気候の変化で発症するような慢性的めまいや、メニエール病の患者さんに対してよく処方するよ。
R:おお、結構効く薬あるんですね。
T:苓桂朮甘湯は甘草を含むから偽性アルドステロン症に注意が必要だね。
確実に診断をつけ、局面ごとに最適な薬剤を選択しよう
R:急性期・亜急性期・慢性期と3つに区切って薬剤を選択するということですね!
T:その通り。そして適正に処方するためには確実な診断が重要なんだ。
末梢性だと思ったら小脳梗塞だったじゃ、しゃれにならないからね。
(ピーポーピーポー)
T:お、救急車が到着したみたいだね。
R:問診は任せて下さい!
T:オッケー、じゃあいっしょに診察しようか。

執筆:音良林太郎

1. 野村泰之. めまいの薬物療法. Equilibrium Research. 2019;78: 7–15.
2. Marill KA, Walsh MJ, Nelson BK. Intravenous Lorazepam versus dimenhydrinate for treatment of vertigo in the emergency department: a randomized clinical trial. Ann Emerg Med. 2000;36: 310–319.
3. 荻野仁, 他. めまい疾患に対する抗不安薬 etizolam の有効性. Equilibrium Research. 1990;49: 301–311.
4. Small MD. Diphenidol, A new antiemetic: A double-blind, placebo-controlled study. Am J Dig Dis. 1966;11: 648–651.
5. 松永亨, 他. 二重盲検法を用いためまい症に対する Diphenidol の薬効試験とその問題点について. 耳鼻咽喉科臨床. 1972;65: 63–83.
6. 渡邊勈, 他. 眩暈症例に対する bethahistine の薬効検定: double-blind test および判定分析 (多変量解析) による. 耳喉. 1967;39: 1237–1250.
7. 水越鉄理, 他. 末梢性耳性めまいに対する adenosine triphosphate の臨床評価. 医学のあゆみ. 1983;126: 988–1010.